□ペディキュア
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「何だよ、ソレ?」



部屋で雑誌を読んでいたら一之瀬が赤い液体の入った小さな瓶を持ってきた。
濃い赤はまるで血のように瓶の中でドロドロと踊っていた。




「ペディキュアだよ。秋に借りたんだ。」

そう言って一之瀬はニコニコと俺の足を掴んだ。


「ペディキュア?ってかどーすんだよ、ソレ?」

「マニキュアの足に塗るヤツをペディキュアって言うんだって。もちろん土門の足に塗るに決まってんじゃん。」



足を掴みながらも器用に瓶を開けた一之瀬は赤く光っているハケを俺の足の爪に滑らせた。

小指の爪の上を何度もハケが行ったり来たり。
丁寧に時間をかけて一之瀬は俺の小指を赤く染めた。





「うわ、上手いな。…じゃなくて、何でだよっ!」

「秋に聞いたんだけど好きな人の左足の小指に赤いペディキュアを塗ると両想いになれるんだって。」

「なんじゃそりゃ、そんなの塗れた時点でもう両想いじゃん。」



塗られたばかりの小指を眺めながら俺は馬鹿らしい、と思った。
なぜ女子はおまじないなんて不確かなものを好むんだろうか。
そんなものに時間をかけるくらいなら直接アピールしに行った方がよっぽどいい。

だけど秋の性格と円堂の鈍さを考えるとこんなものに頼りたくなる気持ちも分からなくもなかった。


でも一之瀬の意図はまったくもって分からない。
俺達はれっきとした恋人同士だし、一之瀬もおまじないなんてものは信じるタイプじゃないはずだ。







「だよね。でもさ…、」

「でも?」

「もっと土門に俺を好きになって欲しくて。」



やっぱりおまじないなんて馬鹿らしいと思った。

でもってこんなものに頼る一之瀬はもっと馬鹿らしい。



「馬鹿だな。」

「酷いね…、土門に乙女心ってもんはないの?」

「そんなもんあってたまるか。それに、」


俺の足元でむくれる一之瀬の前髪を掻き上げて、おでこにキスを送る。





「おまじないや乙女心なんかよりこっちの方が確実、だろ?」














おまじないも乙女心も赤いペディキュアも

真っ赤な唇一つには適わない


end
 

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