文
□人波
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人で賑わう日曜日の駅前。
携帯で流行りのJ-POPを聴きながら人の波を眺める。
有名な犬の像の前には俺と同じように音楽を聞いたり、携帯を弄ったりして暇を潰す人で溢れていた。
隣で本を読んでいた大学生くらいの女の元に同じ年頃の男がやって来た。
男が女に声を掛けると女は途端に笑顔になる。
そのまま二人は手を繋ぎ目の前の人波に消えていった。
その様子をぼーっと眺めていたら不意に肩を叩かれた。
イヤホンを外しながら振り返るとそこには二人組の女の子が立っていた。
俺の待ち人ではない。
「なに?」
「君、一人?よかったらウチらと遊ばない?」
同じような顔をした二人が長い睫毛を瞬かせながら俺の顔を見上げた。
聞き慣れた誘い文句。
聞くまでもなく逆ナンというヤツだ。
「悪いけど人待ってるから。」
こちらもお決まりの文句で断ると、そっか、と言って二人はあっさり引き下がる。
次のターゲットでも探すのか二人は人の波を縫うように歩いて行った。
またイヤホンを耳に差し込むと英語のバラードになっていた。
ゆったりとしたピアノのメロディーラインと繊細な男性ボーカルが特徴的な一曲だ。
俺は忙しない人波を眺めることにも飽きて目を閉じた。
音も光も遮られた世界。
こんなにも人がいるのに、一瞬で独りになった気がした。
そんな時また肩を叩かれた。
目を開くと光で世界が満ちる。
うっすらと影が輪郭を作り、貴方の形になる。
俺の待ち人だ。
「すまない。待たせたな。」
「いや、まだ10分前だし。」
「それでも待たせたことに変わりはない。」
「別にいいって、それより早く行こうぜ。」
「あぁ、そうだな。」
きっと俺は今あの女のような顔をしているんだろう。
俺達はあのカップルのように手を繋がなかったがぴったりと体を寄せて、あの人波にのまれていった。
end