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□そよ風
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一筋、柔らかな風が束ねた髪の毛を乱した。
宵闇に溶けるように漆黒が散る。
その姿があまりに綺麗で、俺は息も忘れて剣城に見惚れた。
「どうした?」
惚けた俺を剣城は不思議そうに見つめた。
その瞳と言葉を発する唇に視線を奪われる。
「なっ…何でもないよ!」
慌てて俺はいつもみたいにヘラッと笑ってみせた。
それでも剣城は不信感を拭いきれないような顔をしていた。
「変な松風。」
そう言った剣城はイヤに上機嫌だった。
普段の彼ならこんな物言いはしないだろう。
きっと、俺がおかしいのは剣城がおかしいからだ。
じゃなきゃ剣城の髪に、唇に触れたいなんて、
決してそんなことは思いはしないはずだ。
また、俺の心を掻き乱すようにそよ風が吹いた
end