□狡い人
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素直になるには不器用過ぎて

俺はただこの思いをもて余すばかり
















同じDFで見た目は女みたいだけど、実はすごく男前な先輩になんでか惚れちゃって数週間。
前よりは突っかかることは少なくなったが、それでもまだ俺と先輩を隔てる溝は深い。

それもこれも不器用過ぎる己のせいなのだが、分かっていても性格というのは直しようがない。




「ってか男同士って時点であり得ないし…。」


ポツリ空に向かって吐いた独り言。
昼休みの屋上なんて誰もすき好んで来ないから返事なんて返ってくるはずがない。

と、思ったのだが。



「何があり得ないんだ?」


そう言って俺の顔を覗き込んだのは件の先輩で。



「き…、霧野先輩!?どうしてここに?」

「そりゃあ俺だってたまには屋上くらいくるさ。で、何があり得ないんだ?」



慌てて起き上がった俺の顔をなおも見下ろしながら、霧野先輩は同じ質問を繰り返した。


「先輩には関係ないです。」


悩みの種である本人に言うわけにもいかず、俺はそっぽを向いて歯切れ悪く嫌みで返す。




「いや、関係あるな。」


やけに自信満々な霧野先輩はわざわざ回り込んで、俺の顔の高さに合わせるようにしゃがみ込んだ。
意志の強い真っ直ぐな瞳が俺を見据える。



「なっ…、ただの部活の先輩後輩でしょ!関係ないじゃないですかっ…!!」


見つめられる恥ずかしさから俺は逃げるように下を向く。
そうしたら霧野先輩の手が俺の顎を持ち上げて、まるでキスをするみたいに上に向かせた。



「俺は狩屋のことが好きだから、お前が悩んでたら気になるんだよ。」

「へ…、先輩が俺を好き?」


先輩の都合の良すぎる言葉に俺は自分の耳を疑った。
両想い、なんてものは想像もしていなかったから。



「ああ、好きだ。狩屋は?」

「俺っ!?」

「告白したんだ、返事を聞くのは当たり前だろ?」


俺もです。
とただ一言いえばいいだけなのに、素直じゃない俺はその一言がなかなか出てこない。




「言わないとキスするぞ?」

「っ………!?」


言葉を発する前にもう塞がれていた。
触れるだけのキスはすぐ離れていく。



「…で、まだ言わないつもりか?もう一回だな。」


言い終わらないうちに顔を近づけてくる先輩の唇を俺は手で抑える。
もう一回されたら今度こそ恥ずかしさで死んでしまう。



「好きっ!俺も好きですからっ!!」

「熱烈な告白ありがとうな。」


俺の手を外した先輩はものすごい笑顔で微笑んだ後、奪うようにキスをした。




「なっ…!言ったらしないって!!」

「言わなきゃするって言っただろう?もうお前は俺のなんだ、これくらいいいだろ?」



そう言って唇を寄せる先輩に俺は諦めて目を閉じた。














やっぱり先輩は狡い人


end
 

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