文
□おそろい
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暑い夏の放課後。
気分は最悪。
5、6時間目はプールで体育の授業。
泳ぐのは好きだし涼しかったから良かった。
けどその後が最悪。
水の心地よさを覚えた体は茹だるような午後の日差しに耐えられないし何より日頃愛用しているワックスを忘れてきてしまった。
おかげでいつも立てている髪は今はだらしなく下りてしまっている。
最近切っていなかった髪は意外と長く、目のあたりまで伸びた前髪がさっきから目に入って痛い。
それにこの髪じゃこの後の部活にも影響するだろう。
「秋、ワックス持ってない?」
いつものユニフォームに着替えベンチでドリンクの準備をしていた幼なじみに声をかけた。
「ワックス?持ってないけどどうしたの?」
「体育の授業プールだったんだけどワックス忘れてさ。邪魔で仕方ないんだよね。」
前髪を一房掴み見せる。
「確かに邪魔そう。う〜ん……あっ!いいもの持ってるよ、ちょっと待ってて!」
秋は思いだしたように手を叩くと急ぎ足で部室まで走っていってしまった。
「これなら前髪止められるよ!」
数分後、息を切らしながら戻ってきた秋の手にはいつも秋が前髪を止めている可愛らしいピンクの髪留めがあった。
「…秋さん、ホントにそれつけんの?」
シンプルだか可愛らしいピンク色の髪留めで前髪を止めてる自分を想像し少しどうかと思う。
「大丈夫、土門君なら似合うよ。そこのベンチに座って、つけてあげる。」
まったく根拠のない言葉に首を傾けながらも渋々俺はベンチに座った。
「じっとしててね。」
至近距離で顔をつきあわせてるのにまったく緊張しないのは幼なじみだからか何なのか。
長めの俺の前髪はパチンという音をたてて髪留めに収まった。
「出来たよ、どう?」
「ん、さっぱりした。サンキュ。」
見た目はどうであれさっきまでの不快感はなくなった。
「土門君、可愛い。お揃いだね!」
「可愛くはないだろ…、でもお揃いは嬉しいな。」
ニコニコと笑う幼なじみを見るとこっちまで嬉しくなってしまう。
「今度また髪いじらせてね?可愛くしてあげるから。」
「別にいじるのは構わないけど可愛くはちょっとな……。」
二人でベンチに座りながら話していたら後ろから重い一撃。
「一之瀬…。」
「一之瀬君!」
振り向くともう一人の幼なじみが両手を広げ俺たちを包み込むように抱きしめていた。
「急になんだよ。」
「俺の幼なじみ達は可愛いなーと思って。」
「なんだよそれ。」
俺と一之瀬のやりとりに秋は楽しそうに笑う。
あの頃より大人になったけどこの関係はいつまでも変わらない。
暑い夏の放課後。
気分は最高。
end
→あとがき