文
□五感
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「染岡君。」
俺を呼ぶアイツの声が好きだ。
声変わりをしたばかりの少年の声。
甘い響きは心地よく、鼓膜を震わせ脳を揺らす。
振り返ればアイツの姿。
落ち着いたグレーに白、星を散りばめた深緑。
目に映った瞬間に条件反射のごとく胸が脈打ち体中の血管が騒ぎ出す。
「染岡君。」
もう一度名前を呼んで吹雪の手が俺を捕らえた。
俺の体を閉じ込める白い檻。
肩口に顔を埋めると冬の匂いがした。
澄んだ冬の空気。呼吸が出来ない程キレイで静かな冬の朝。
どんな香りより一番安心出来る匂い。
「キス、していい?」
俺は黙って背中に腕を回した。
しっくりくる体がここが正しい在処だと教えてくれる。
目を閉じる。
暗闇に浮かぶ白。
深いキス。
粘膜同士が絡まり溶けてひとつになる。
触れる唇だけが現実。
何にも例えられない吹雪の味
聴こえるのは淫らな水音と微かな呼吸音
混ざり合う互いの匂い
触れる熱い唇の触感
目を開ければ―――
end
(五感で支配)
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