□桜色
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春、桜の季節。

歩道や公園、学校など様々な所で薄紅の花が咲き、散っていく。




鬼道邸の庭にも大木の桜が一本、見事な花を咲かせていた。















「うわぁ……、綺麗ですね鬼道さん。」



満開の桜の下、土門が手を伸ばす。

巨木の枝は高く背の高い土門が手を伸ばしても到底とどかない。





「だろう?家の桜は他と違って必要最低限の剪定しかしていないからな。」



鬼道邸の桜は街で見かける桜と違い濃い薄紅色で山に咲いている桜のような力強さがあった。








「はい。こんな素敵な桜を見せてくれてありがとうございます。」






土門が花のように微笑んだ。
綺麗な笑みに頭上の桜も霞んでしまう。



「ああ、俺もお前とこの桜を見れて嬉しい。」


















刹那、春風が吹いた。

優しい風がカサカサと枝を揺らし花弁を散らす。



ヒラヒラと舞った花弁の一枚が土門の頭を飾った。










「土門、頭に花びらがついてるぞ。」


「えっ?どこですか?」

「取ってやる。」




土門の髪の毛に指を絡め花弁を取ろうとした瞬間、また一筋の風が吹き花弁を攫っていった。


鬼道はその花弁が飛んでいった先をずっと見つめていた。










「鬼道さん?取れました?」



一向に動かない鬼道を不思議に思ったのか土門は鬼道の顔を覗き込む。







「ああ………。いや、まだだった。」




鬼道は髪に絡んだ指を頬に滑らせ薄く開いた紅い唇に口付けた。






短いとも長いともとれる時間

確かに世界はふたりだけのものだった


















「取れたぞ。」



唇を離すと土門の頬は桜色に染まっていた。

艶やかに光る紅い唇によく似合う。






「…嘘つき。」






















咲いて 散って 舞って

アナタと色付く桜色













end
 

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