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□アナタの為だけの涙
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土門飛鳥の第一印象は笑顔だった。
俺に媚び諂う奴らの笑顔なら嫌と言うほど見てきたがそれとは違った。
言葉にするなら冷たく人を拒絶する笑み。
どこか作り物めいていて仮面が張り付いているようだった。
俺はそこで初めて土門飛鳥を深く知りたいと思った。
幾ばくか月日が経ち土門は雷門に転校した。
俺も追いかけるように転校すると土門は変わっていた。
雰囲気も柔らかくなり、何より本物の笑顔で笑うようになった。
暖かく穏やかな笑顔に俺は二度目の感情を抱いた。
しかしその感情は一度目より強く、しっかりしたものになっていた。
土門を視線で追いかける日々、俺は一つのことに気づいた。
たまにほんの一瞬、笑顔の隙間に酷く顔を歪める時がある。
眉間に深く皺を寄せ、口をキュッと結ぶ。
それはまるで涙を堪える子供の様だった。
土門がそんな顔をする時は決まってどこか遠くを見ていた。
空よりも遠い遠いどこか。
土門が顔を歪める回数が増えた頃、俺は耐えられなくなり土門にこう言った。
「泣け、泣いてしまえ土門。」
土門の視界に俺は映らない。
強く抱きしめても俺の腕の中に土門はいなかった。
「ごめん、鬼道さん。……俺の涙もアイツのものだから。」
そう言った土門は涙の代わりに笑った。
くしゃくしゃの笑顔でちっとも笑えていなかったが笑っていた。
きっとアイツの前でも涙を見せることはないだろう
俺は顔も名前も知らないアイツに嫉妬した
end
→あとがき