□1st anniversary〜kD.Ver〜
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今日は特別な日。

付き合ってちょうど一年。



一年前の今日、あの一言から始まった二人の関係。

きっかけは小さなことだった。



















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突然の雨に降られ、土門は急いで近くの軒下に駆け込んだ。

そこはもう店仕舞いしたのか、はたまた始めから店なんてやってないのか、シャッターが降りていた。


肩の雫を払い、一息つくと土門は灰色の空を見上げた。

強い雨足はとどまる気配がない。



ここでしばらく雨宿りをするか、それとも覚悟を決めて濡れ鼠になるか。
そう考えていたら一つの影が軒下に滑り込んだ。



「あれ?鬼道じゃん。」

それは部活仲間の鬼道有人だった。

彼のトレードマークであるドレッドは濡れて萎み、ゴーグルは外されていてまるで別人のようだ。


「土門か。お前も雨宿りか?」


濡れた髪をかきあげながら鬼道の二つの赤い瞳が俺を捕らえる。

モノトーンな景色に鮮やか過ぎる赤い瞳が何度かまばたきをした。




「あぁ、突然降られちまって走ったら偶然ここを見つけたってわけ。」

「同じだな。俺の方が少し遠かったようだが。」


そう言った鬼道は土門よりも濡れていて、学ランの紺が深く染まっていた。
顔からも雫が絶え間なく流れ落ち、鬼道が袖口でそれを拭うが濡れた布はまったく役にたっていなかった。


土門は雷門中の指定鞄を開けると真っ白いタオルを取り出し鬼道に押し付けた。



「使えよ、それ。洗い立てだから大丈夫だし。」

「しかし…いいのか?」

「いいって。風邪引いたら困るだろ?」

「すまない、では有り難く使わせてもらおう。」


たまたま持ち合わせていたタオルがこんなとこで役立つとは。

備えあれば憂いなしだな、と土門は思ったが折り畳み傘を備えていない時点でそれは万全ではない。




黙って髪や顔を拭く鬼道に、土門はなんて声をかければいいか悩んだ。

実は土門は鬼道が苦手だった。


嫌いではないし寧ろ大切なチームメイトであるが、過去のこともあり心から打ち解けることはまだ出来ていない。
他に円堂などがいれば会話に困らないが、ふとこうやってふたりきりになると何を話していいか分からないのである。



ぐるぐると思考を巡らす土門だったがそれを鬼道が打ち破った。




「止まないな…。」


誰に投げかける訳でもなく放り出された言葉。

それを土門は拾い上げる。



「だな、嫌になるよ、まったく。」

「俺は…別に嫌ではない。」

「なんで?サッカーも出来ないじゃん。」



こんなに濡らされて時間を削られているのに、合理主義の鬼道らしくない。




「それは…お前と二人になれたから、だ。」

「俺と?何か言いたいことでもあんの?」



ふたりきりではないと話せない内容とはなんだろうか。
もうスパイなんて真似はもちろんしていない。

部活のことはいつだっていいし、鬼道が人に悩みを相談するようなタイプでもない。


土門はまたぐるぐると悩み始めたがやはり答えはでてこなかった。




「言いたいこと…というか、その…、だな、」


珍しく歯切れ悪い鬼道の物言いに土門は困惑するばかり。

こんな鬼道は初めてだった。









「好き…なんだ。」


たっぷり時間をかけ、消え入りそうな声で鬼道はその二文字を告げた。





「へ、何が?雨?」

「違う。」

「じゃあ雨宿りが?」

「違う。」

「あぁ、濡れるのがか!」

「違う!お前だっ!!」



お前、それはつまり土門を指しているわけで。

しかもこの様子からすると友情ではないだろう。


初めての告白、しかも同性からの告白で土門は戸惑ったが不思議と嫌な気はしなかった。

寧ろむず痒いような気持ちの方が強かった。






「土門が好きなんだ。」

もう一度。
今度は確かな響きを持って想いを告げられる。








もう俺の答えは決まっていた。





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