TEXT 結*師

□兄弟喧嘩
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<兄弟喧嘩>

頭領、おでかけですか。どちらへ。
「多分、海の方。あまり、風が強くないといいんだけど」

正守がその屋敷に着いた時、扇一郎は既に来ていた。
「おお正守、来てくれたか」
「当たり前じゃないですか。ここんトコ忙しくて…俺も少し骨休めしたいんですよ」
「ゆるりとするが良い。ささ、茶でもどうだ。菓子もあるぞ」
「わあ栗羊羹じゃないですか。俺の好物覚えていてくれたんですね!」
一郎は、それらを美味そうに食べる正守を、目を細めて眺めた。
ここは海の近くの別荘、岬に面した離れ座敷である。
茶をすすり終えた正守は、開け放たれた障子の向こうに広がる海を眺めた。
海は穏やかで、ざざんざざんと寄せる波の音だけが聞こえた。
「なかなかいい屋敷だろう。多少こぢんまりしているが、眺めが良くてな」
「人気がないのがいいですね。隠れ家みたいで…」
だから扇はここを選んだのだ。
扇家の私有地は全国にあって屋敷も多く、自身の保養の為温泉を引いた別荘もある。
ここはそういう屋敷のひとつだ。
「静かですねえ。うちは血の気が多いのばかりだから賑やかで…たまにはいいなあ、こういう所」
正守がほうっと微笑むので、一郎は大いに気を良くした。
「誰も近寄らぬよう言いつけてある。だから正守…何の気兼ねもいらんのだぞ」
一郎は頭巾の下から囁いて、正守の肩を抱こうとしたのだが。
「あ、お風呂見せてもらっていいですか?温泉なんでしょう?」
正守はするりと抜け出て立ち上がり、たた、と廊下に出てしまう。
(照れおって…くっくっくっく)
一郎はのそりと巨体を揺らして海原に目を向けた。
今宵いよいよ正守を抱けると思うと、早くも全身の血がたぎる。
「露天風呂もあるぞ」
一郎は正守の後を追った。
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