宝物
□ヨキさんより★一万打記念
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『jealousy』
「かーんぱぁーい!!!」
カチンと鳴るグラス、煌びやかなシャンデリア、フロアに響く乾杯の声。
あちこちからバカ騒ぎの声や囁きが聞こえてくる。
此処は眠らない街の摩天楼の一角にあるホストクラブ。
「ハァー…なんでこんな事に…」
そのロッカールームで大きく溜め息を吐く俺。
新しい任務として与えられたのが、人手不足で忍の手も借りたいほど困っているホストクラブでの勤務。
なんで俺が、とも思ったが、今は納得している。
「仕方ねーだろ、カンクロウ。風影様の命令なんだからよ。」
「でもぶっちゃけアンタだけでいいじゃん?」
そう、俺が『所持』してる傀儡があまりにイケメンだからって、こんな話が回ってきたのだ。
サソリがホスト、そんで俺がボーイとして働くのが今回の任務だ。
「ダメに決まってんだろ。ボーイも足りねーんだから。つーか報告書や任務の請け負いはお前の名前だろ。」
「まぁそりゃそうだよな…あれ?なんかアンタ、今日背ぇ高くね?」
いつもは見下ろしている視線が、今日は同じ位だ。
大人っぽく見えて、少しドキドキする。
「流石にいつもの身体じゃ未成年に見られるからな。ちょっと弄った。」
「ふーん…」
悔しいけど、カッコいいじゃん、サソリ。
完璧なイケメンって感じだ。
いつもソレでいたらいいのに。
そう思っていたら、見透かしたようにサソリが笑った。
「いつもこの格好だったら、お前が困るだろ。」
「どっ、どういう意味だよ!?」
「さぁな…ほら、行くぞ。頑張れよ、カンクロウ。」
「アンタもな。」
身支度を終えて俺は厨房へ、サソリはフロアへ。
厨房からはフロアが一望でき、さっき別れたサソリが本職のホストの兄さん方へ仕事を聞きに行っているのが見えた。
そういえば、サソリが任務してんのって初めて見るじゃん…
ホストの兄さんに仕事内容を教わってるサソリの真剣な顔は今まで見た事がなくて、ちょっとドキッとした。
砂隠れにいた頃は、アイツもこんな風に真面目に任務こなしてたんだろうな…
普段からあんな感じだったら、俺だってもう少し素直になってやるのに。
真面目でカッコよくて、俺が憧れてた伝説の傀儡師そのまんまじゃん。
言うと調子に乗ってウゼーからぜってー言わねーけど、本職のホストに囲まれてても、やっぱサソリが一番カッコいいじゃん。
スーツも似合ってるし、身のこなしも上品でイヤミくさくねーし、ちょっと影があるとことか女ウケしそうだし。
見とれちまうよなぁ、サソリ…
ついつい、目で追っちまう。
いつもはアイツがふざけた事ばっかしてるから素っ気ないけど、そりゃ何年も憧れ続けてたワケだし?
本当は俺、サソリの事、ちょっとは好き、かもしんない。
いやいや、そんな事考えてる場合じゃなくて、俺も任務にあたらねーと!!
しっかし、この短時間ですっかりホスト姿が様になってるじゃん。
さっきまで普通に会話してたのに、もう別の人みてぇ。
ちょっと距離感じちゃうじゃん。
そうしてる内に、俺も厨房の仕事が忙しくなってきた。
一旦サソリから目を離して自分の業務にあたる。
仕事自体は結構楽だ。
だが、こういう雰囲気にはなかなか慣れない。
裏へ休憩に来るホストが絡んできたり、客や別のホストの悪口を言ってんの聞いたり、客とホストがイチャイチャしてんの見せつけられたり。
そんな空気に馴染めない俺は早くも帰りたくなっていたが、サソリは恐ろしい程馴染んでた。
もう早速ひとりでお客さんについてるし。
おいおい、やっぱりこの任務サソリだけで充分だったんじゃねーの?
ちょっと暇ができたんで、サソリの席の様子を窺ってみる事にした。