宝物
□ヨキさんより★一万打記念
2ページ/4ページ
サソリ、普段俺と話す時は変態発言しかしねーし、あんま人と話す方じゃねーからちょっと心配だったり。
それにオッサンだし、あの若い女の子のお客さんとどんな話するんだろう?
気になるじゃん?
「ねーサソリさん、次は何飲むー?」
「お前は何飲みたいんだ?」
「サソリさんのオススメなの飲みたいなぁ!」
「甘いのと苦いのどっちがいい?」
「甘いのー♪」
「分かった。甘いのな。」
なんだよ、結構いい雰囲気じゃん。
俺以外にあんな親しげに話しかけたりしてるサソリって初めて見る。
「ねぇサソリさん、」
「サソリでいい。」
あ、ちょっと距離縮まってんじゃん。
ハラハラしてきた。
「サソリっていくつなの?」
「いくつに見える?」
「えー?すっごく若く見えるぅー!!」
そりゃそうだよ、15歳のツラなんだからよ。
「いくつなのー?ひょっとして18歳未満だったり?イケナイんだー!!」
「そんな訳ねーだろ。当ててみろよ。」
「当たったらご褒美頂戴ねー!!」
「ああ、いいぜ。」
ぜってー当たんねーじゃん、そのツラで35歳とか!
「んー、ハタチそこそこっぽいけど…23とかぁ?」
分かりきってるけど、さーて、お答えは?
「残念だな。25歳だ。」
10歳もサバ読んでんじゃねーよオッサン!!!
「えぇー意外!!」
「よく言われるんだよ、オレ童顔らしくてな。」
らしいも何もまんま15だからなアンタ。
「うん、超若く見えるよー!!あーあ、ご褒美欲しかったなー!」
「じゃあご褒美の代わりな。」
そう言ってサソリは女の子の頭を撫でた。
「次は頑張れよ。」
「えへへー♪がんばるっ♪」
うわ、サラッとそういう事するんだアンタ。
頭撫でるなんて俺にしかしねーと思ってたのに…
別に撫でてほしいってワケじゃねーけど、そんなんじゃねーけど、なんかちょっと腹のあたりがムズムズするっつーかモヤモヤするっつーか…
「あ、飲み物きたー!乾杯しよっ♪」
「いただきます。乾杯。」
「かんぱーい!!」
カチンとグラスを合わせて、サソリがそれを飲み干す。
「すごーい!!お酒強いねー♪」
「まぁな…あ、」
女の子の口元にサソリが手を伸ばす。
おい、何してんのアンタ、女の子の顎に手ェかけて、アンタ何しようとしてんの!?
「付いてるぞ。」
指先で女の子の唇の端に光る雫を拭い、ぺろっと舐めた。
嘘、
マジで!?
そういう事もすんの!?
しちゃうの!?
「ありがとっ!!もー!!ちょっとドキドキしちゃったよー!!」
「何故?」
「キスされるかと思ったからー!」
俺も思ったじゃん!!
違ってちょっとほっとしたけど、何さっきのアレ!?
直接じゃねーけど、舐めるとかすんの!?
そういうのも俺にしかしねーと思ってたのに!!
「キス?まだしねーよ。」
えっ、
何だよ『まだ』って、する気あんの!?
流石にソレはないよな!?
「してもいいよー♪あたし結構うまいんだよっ♪あ、でもお店だと困る?」
「別に?」
サソリが舌をちらっと覗かせ、唇を舐める。
待て待て待って、
するの!!?
しちゃうの!?
ホストクラブってそういうのアリなの!?
キスとかアリなの!?
ソレもサービスのうちなの!?
えっ、どうしよう!!?
サソリ誘ってんじゃん!!
キスする気満々じゃん!!
なんか嫌じゃん!!
かなり嫌じゃん!!
スッゴく嫌じゃん!!
「しちゃっていいのー?」
「お前次第だ。」
じゃあするって言っちゃうよその子!!
しちゃうよその子!!
断れって!!
アンタは俺のなんだから!!
あ、
いや、
サソリが好きだからとかじゃなくてサソリは俺の傀儡で、ってそういう意味じゃん!!
サソリが誰とキスしようが勝手じゃん!!
ホストだし!!
第一コレ任務だし!!
俺だって忍だし!!
これ位で心に波風とか立たないし!!
全然平気だし!!
嘘じゃん!!
こんなの嫌じゃん!!
正直サソリの事好きじゃん!!
大好きじゃん!!
俺ら恋人じゃん!!
ムチャクチャ気になるじゃん!!
サソリが他の奴とキスすんのとか見たくないじゃん!!
「じゃあしちゃおっか♪」
「いいのか?」
ダメ!!
ぜってーダメじゃん!!
あ、
顔近づいてくし!!
ダメだってサソリ!!
俺は思わず駆け出していた。
厨房を飛び出し、フロアを突っ切り、サソリのテーブルへ。
間一髪、唇が触れ合う寸前だった。
「おいサソリッ!!」
任務中だって事すっかり忘れて、俺はサソリを怒鳴りつけていた。
俺に気付いたサソリが、顔を上げる。
「どうした?」
「あ、イヤ、」
しまった、と思った。
何しに来てんの、俺。
手ブラだし、何も考えてなくて、なんとか止めなきゃって思って突っ走っちまった。
ど、どうしよう、キスは阻止できたっぽいけど、いい雰囲気の時にいきなりボーイが来てぶち壊しじゃお客さんの機嫌も悪くなるだろうし、つか見た感じスゲームスッとしてるし、ヤベーじゃん!!
忍のクセにこんな事に大慌てしてたんじゃ砂隠れの信用も落ちちまうし、それに、サソリも俺にゲンメツしちゃうんじゃ…
マジどうしよう?
なんて理由つけよう?
冷や汗をかきながら頭をフル回転させてみるけど、真っ白になって何も思い浮かばねぇ。
すがるようにサソリを見ると、仕方ねーな、って顔して、助け船を出してくれた。
「あ、悪い悪い、オレ別のテーブルに呼ばれてたんだったな。お前といるのが楽しくて忘れてた。」
「あ、そうなの?えー、もう行っちゃうのー?」
「ごめんな、お前についてたいけどオレ新人だからさ。先輩の言う事は絶対なんだよ。また戻ってくるから、イイコで待ってろよ。」
「もー、仕方ないなぁ、早く戻って来てね!!」
「ああ。じゃあ一旦、ごちそうさま。」
寂しそうな顔の女の子を残してサソリは席を立ち、俺を促して店の奥へ引っ込んだ。