薄桜鬼 小説
□何度でも
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寄り添い、互いの温もりで微睡んでいた。
ふと気付くと、斎藤の規則正しい寝息が聞こえてきた。
彼の腕に乗せたままの頭を、少し浮かして顔を上げる。
綺麗……。
思わずうっとりと瞳を伏せてしまうほどの整った顔に、思わず溜め息が漏れてしまう。
「私なんかじゃ…不釣り合いだなぁ…」
かといって、他の人が側にいたらなんて考えたくなくて、千鶴は眉をひそめた。
「もっと綺麗になりたいなぁ…」
ポツリと呟きながら、斎藤の頬に触れる。
「………ふっ…」
ふと気付くと、斎藤が肩を震わせて笑っていた。
「!?」
顔を真っ赤にして千鶴が手を離すと、斎藤は目を開けて、逃げようと身を捩る彼女の身体を更にきつく抱き締めた。
「起きてたんですか!?」
「いや…寝てた」
「じゃあ何で笑ってるんですかっ」
未だに口元が緩んでいる斎藤を、恥ずかしさから潤んだ瞳で睨む千鶴。
彼女の反応が可愛くてつい寝たふりをしていたのだが…。
ポカポカと斎藤の胸を叩いて、照れ隠しをする千鶴は、彼のそんな考えなど知る由もなく…。
「どんなに綺麗でも…お前にしか興味はない…」
そんな彼の言葉にも、納得しなかった。
「私…童顔だし…寸胴だし…胸だって無いし…」
最後の方は、恥ずかしかったのか、自分で言ってて悲しくなってきたのか、ほとんど声になっていなかった。
斎藤は、少し考えてから千鶴を抱いていた腕を離し、起き上がった。
「あっ……」
呆れられたのかと思い、慌てて起き上がろうとした千鶴を、彼は押し止めた。
しっかりと掴まれた両腕はびくりともしない。
「……はじめ…さん?」
不思議そうに見上げる千鶴を、斎藤は真剣な眼差しで見つめた。
髪の毛から目…鼻…唇…耳…首すじ…鎖骨…
目でなぞられる感覚に、千鶴はぞくりとした。
「は…恥ずかしいですっ…」
思わず目を閉じると、今はどこを見られているのかがわからない焦燥感に襲われる。
どうすればいいの〜!?
勇気を出して、涙が滲む視界を開くと、微笑みを浮かべる斎藤がいた。
「目を瞑ったら…お仕置きだ…」
そう耳元で囁くと、千鶴の身体が震えた。
頭に…額に…頬に…鼻に…キスの雨が降る。
音も無く、ただ触れるだけの……優しくて甘いもの…。
それが首すじをなぞった時、千鶴は反射的に目を瞑ってしまった。
――しまった!
そう思い恐る恐る見上げると、そこには満面の笑みを浮かべた斎藤の顔があった。
「…お仕置き…だな…」
そう呟くと、千鶴の両腕を頭の上に持っていき、片手で掴んだ。
もう一方の手でゆっくりと鎖骨を撫でて、胸元をなぞっていく。
「…ふぁっ…」
甘い刺激に眉を潜めて、目を瞑った千鶴の耳たぶを軽く噛んで、斎藤は囁いた。
「…ちゃんと見ていろ……俺がどれだけお前に夢中なのか…教えてやる…」
*********
甘い痺れがまだ響く千鶴の身体を、斎藤はそっと抱き締めた。
腕の上にある千鶴の顔を覗くと、潤んだ目と火照った頬にぶつかる。
「伝わったか…?」
「…………」
斎藤の問いに、ぷいっと顔を背ける。
「そうか…」
そう呟くと、斎藤は千鶴の元から腕を抜いた。
――あ……怒っちゃった…?
慌てて振り返ると、斎藤は千鶴の上になっていた。
「俺の奥さんは…まだ愛情が足らないようだ」
そう呟くと、悪戯な笑顔を浮かべた。
「何度だって伝える…お前が安心するまで」