薄桜鬼 小説

□体温
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―肌寒い夜…


―寄り添えば聞こえる貴方の鼓動…呼吸…


――貴方の体温…



涙が止めどなく溢れるのは、きっと…先程見た夢のせい…



左之助さんの身体が冷たくて…呼んでも呼んでも返事がなくて…


逝かないで
と、願いながら思った。


もっと愛していると伝えればよかったと。



彼がくれた愛情は…大きくて……温かくて…。


それが無くなってしまったら


私は…歩けるだろうか…





「……独りにしないで…」



震える唇から出た言葉が、余計胸を締め付けた。


……独り………




「愛してます……愛してます……愛して……」



行く当てのない想いが溢れ出して、勝手に出てくる。








「どうした……?」





優しい声を見上げると、心配そうに覗き込む原田の瞳にぶつかる。



「泣いてるのか?」


私の腰に回していた手が、頬に触れる。



何度拭っても途切れない涙。





「どこにも…いかないで…ください…」




優しい瞳に促されて、懇願した。




原田の夜着を掴み、身を寄せる。



「どこにも行かねぇよ……お前を置いてくようなことは、絶対にしねぇ…」




瞳を反らさずに…真剣な面持ちで伝える。

それに反して、優しく、子供をあやすように擦られる背中。


「わ…たし……の…伝わって…ますか?」



「ん…?」



「左之助…さん…愛してるっ…て……伝わって…ますか?」




しゃくり上げる千鶴を、原田は笑顔で見つめる。





「そいつは俺のセリフだ…」



―…?



千鶴が首を傾げると、原田は彼女の茶色い髪を一束掬い、口付けながら続けた。



「何度触れても……伝えても…足りねぇ……。 次の瞬間には溢れてきちまう……」




困った様に微笑む彼が綺麗で、千鶴は息を飲んだ。






「だから俺はお前に触れるのを止められねぇ……」




瞳の色が変わり、妖艶な笑みが消える。






「…ふ……ぅ…」






激しい口付けに、頭が白くなる。



「…愛してるぜ…」






呼吸の合間に告げられた言葉は、唇を通して身体中を駆け巡った。





貴方の体温で、私は朱く染まるの…。


「愛してます……」






そして花開く頃……私は蕩けて貴方と一つになる。

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