薄桜鬼 小説
□潤んだ瞳は誰が為
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「……はぁ……」
さらしを巻いて溜め息をつく。
千鶴は、胸元に手を当てて困り果てていた。
「うぅ……さらしが苦しい……」
悩んでいた胸の急な成長に、千鶴は困惑していた。
昨日は、きつくしすぎて目眩を起こして心配かけちゃったし…。
―大丈夫か?
そう心配してくれた皆に、理由なんて言えないし…。
かといって、胸が目立ってしまっては他の隊士にバレてしまう…。
「…でも苦しい……」
はぁ……
切ない溜め息を漏らして、千鶴は自室を後にした。
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千鶴が、手際よく朝食の準備をしていると、台所の戸がゆっくりと開かれる。
今日の朝食当番である斎藤が来たのだと分かると、千鶴は微笑んだ。
「おはようございます」
「…おはよう」
斎藤は辺りを見回して、もうほとんどすることがないことに眉を潜めた。
「今日の当番は俺の筈だが…」
「すみません…何かしてないと落ち着かなくて…」
千鶴が慌てて頭を下げると、斎藤は困った顔をした。
―謝るところではないのだが…
「お前の作る料理は美味いから…皆喜ぶ…」
そう告げると、千鶴は顔を上げて微笑んだ。
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斎藤が手伝いをしてくれたことで、準備は終わり、後は盛り付けるだけだった。
「…は…ぁ…」
千鶴が漏らす溜め息の回数が増えていた。
―?
斎藤は、横目で千鶴の表情を伺った。
潤んだ瞳と朱みが差す頬…
―…風邪か?
箸を置いて、隣に立つ千鶴の額に手を当てる。
「さ…斎藤さん?」
―少し熱いか…
ちらっと千鶴を見ると、潤んだ瞳が見上げていた。
「!!!!!!」
艶やかな千鶴の表情に、斎藤は思わず手を離した。
「具合が…悪いのなら…無理をするな」
「は…はい…」
それから二人は恥ずかしさから、黙々と盛り付けをした。
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「やっぱり千鶴の味付けが一番だなぁ」
「千鶴ちゃん! おかわり! 大盛りなっ!」
「新八! それくらい自分でやれ」
広間に、賑やかな声が響く。
「…はぁ…」
これだけ騒がしければ、誰にも聞こえてないだろうと思っていたのだが…
「千鶴ちゃん、どうしたの?」
「えっ?」
思わぬ方向から声が降ってきて、千鶴はどきりとした。
新八と原田に挟まれていた千鶴の正面には、斎藤、その横に沖田がいた。
「あ…いえ…何でも…」
「そんな潤んだ目で見ないでよ……誘ってるの?」
意地悪な瞳が細められる。
さ
そ
う
?
意味が分からず硬直していると、原田が覗き込む。
「さっきから気になってはいたんだが……お前汗掻いてないか?」
「い…いえ……あ…ちょっと暑くて…」
「今日霜が下りてたぜ」
永倉が、思い出した様に呟く。
「あ…えと…」
まさかサラシが苦しいなんて言える訳がなく、千鶴は慌てた。
「大丈夫です! ご飯だってちゃんと食べてますし」
殆ど手を着けていなかったご飯を、思いきり口に含んでいく。
そんな姿を、皆は何も言わずに見ていた。