薄桜鬼 小説
□流れ星
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「…………」
「兄さん? どうしたんですか?」
心配そうに覗き込む千鶴を、斎藤は目を見開いて見つめた。
兄……? 俺が………雪村の…?
それは布団から起き上がり、丁寧に畳んだそれを押入れに入れた時に起こった。
「兄さんっ 起きてますか?」
「…?」
千鶴の声であり、千鶴の口調だが可笑しな言葉が紡がれた気がして、斎藤は答えずにいた。
「兄さん? 開けますよ?」
答えが返ってこないことに不安を覚えたのか、千鶴はゆっくりと襖を開けた。
「起きてたんですね! 返事がなかったので、まだ眠ってるのかと思いました」
屈託のない笑顔で言われれば、斎藤は困った顔をするしかなかった。
「雪村…俺はお前の兄ではないが…」
気の利いた言葉が出てこないため、斎藤は素直に声にした。
「え…?」
千鶴のキョトンとした表情は、すぐに笑顔に変わった。
「寝惚けてるんですか? 兄さんたら……変な事言わないで下さい」
くすくすと笑って、千鶴は「朝食の支度がもうすぐで整いますから、二度寝しちゃダメですよ」と言い残し、部屋を後にした。
千鶴が去っていった後を呆然と見つめた斎藤は、これは夢なのかもしれないと自身の頬を強く摘まんだ。
「何故……兄……」
首をいくら傾げても答えは見つからず、斎藤は深く考えることを止めて自室を後にした。
「一君、どうしたんだよ? 難しい顔してるけど…」
朝食を食べ終わり、茶を啜っていると藤堂が心配そうに覗き込んできた。
「いや……何でもない…」
朝食の時の会話から察するに、千鶴を妹だと思っていないのは斎藤だけで、皆"斎藤の妹"として可愛がっていた。
どうも思考が追いつかない斎藤は、昨日までのことを細かく必死に思い出していたのだ。
巡察に行き、何事もなく終わり、副長に報告をし……。
何一つ結び付かない。
何故……何故……
ぐるぐると頭を巡らせるが、斎藤は溜め息しか出なかった。
「?」
その光景を首を傾げながら見ていた藤堂と永倉は、何かを言おうとしたが沖田に遮られた。
「一君が羨ましいなぁ…」
「…何故…」
もうそれしか言葉が見つからない斎藤は、考えることもせず口にした。
「僕も千鶴ちゃんに兄さんなんて言われたい」
その言葉に、斎藤はハッとした。
昨晩、ふとした拍子に千鶴の頭を撫でた斎藤は、照れて頬を赤らめた彼女を見て、微笑んだ。
愛しいと思った。
出来るならもっと近くで守りたいと……。
だがその感情の定まる位置が見つからず、斎藤は悩んだ。
千鶴は家族のようで……
ならば年下なのだから……
妹……?
それなら近くで守れるし、愛しいと思ってもおかしくない。
なんだかピッタリ当てはまっていない気もしたけれど、斎藤は夜空を見上げた。
押し黙る斎藤を不審に思った千鶴は、顔を上げると歓声を上げた。
「綺麗……」
星達が零れ落ちてくる
幾筋も幾筋も……
夜空に流れていく
「斎藤さん、願い事しましたか?」
「願い事……?」
「はいっ 流れる星は願いを叶えてくれるそうです」
千鶴の笑顔に促されて、斎藤は流れる星に願った。
千鶴を守りたい……誰よりも側で……
そう願った。
だが流れる星が叶えたのは、願った方ではなく、考えていた方。
まさかとは思うが……これしかない……。
一生このまま千鶴を妹として側に置く……?
一生は無理だろう…
いつか嫁に行ってしまったら……
嫁!?
千鶴が!?
それは嫌だ…。
何故?
何故嫌なのだろう…。
流星が気付かせた斎藤の想い
次の日、千鶴は彼をこう呼んだ。
「斎藤さんっ」
いつもの優しい笑顔が向けられると、斎藤は更なる自覚をした。
側に置いておきたい……
それはきっと……
誰にも渡したくない……
ということだと。
終わり