薄桜鬼 小説

□流れ星
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生殺しだ……





百戦錬磨の原田にとって、忍耐が1日中続くという試練が起きた時、彼は何度も呟いた。





*********


今日は、何やら皆が忙しなく動き回っていた。


原田が千鶴と共に巡察から帰り、土方に報告するからと彼女と別れると、屯所が静まり返っていることに不審に思いながら土方の部屋に入っていった。










「皆さん…お出かけになられたんですか?」


「留守番頼むって言って土方さんも出ていっちまったからなぁ…」


原田の部屋にお茶を届けに来た千鶴に、報告の際に告げられたことを話すと、彼女は暫く考えた後、少し待っていてくださいと言い残し部屋を後にした。



どうしたのだろうと首を傾げながらも、淹れてくれた茶を啜る。

再び襖が開けられた時、彼女の手には茶菓子が1つあった。


近藤が土産にと千鶴に渡したものらしいのだが、数が少ない為皆に配るわけにはいかないと思い、客人用のお茶請けにしていたという。


「原田さんにはいつも助けて頂いてますから」


皆さんには内緒ですよ? と人差し指を唇に当てて微笑んだ千鶴に、原田は目を見開いて頬を赤らめた。


だ……抱きしめてぇ…



思わず腕が伸びそうになるが、慌てて自制する。


何やってんだ……餓鬼かっ……




「原田さん?」


「あぁ、わりぃ。ありがとな」


差し出されたそれを受け取って、原田は包紙から出すと、器用に半分に割った。


「どぅせお前のことだから食ってねぇんだろ?」


千鶴の方に片方を差し出すと、彼女は必死に手を振った。

「私っ食べました!大丈夫ですっ」


「そっか? ……お、これつぶ餡なんだな」


「えっ! はいっ」


「へ〜…餅も入ってんだ」


「そ…そうなんですっ! 美味しいですよっ」



「……こし餡で中には栗が入ってんだがな」



「…………」



原田の罠にはまった千鶴は、顔を真っ赤にして硬直した。


「いいから食えよ。 お前と一緒に食った方が美味く感じるしな」


千鶴の反応に笑いながら言うと、原田は彼女の手を取り、それを掌に乗せた。


「いじわるです…」


口を尖らせて拗ねる千鶴に、原田はまた笑った。





夕刻になっても誰も帰って来ず、夕食だというのに広間には原田と千鶴の二人のみだった。


「なんだか寂しいですね」

大人数分の料理に慣れてしまった千鶴は、物足りなさを感じつつ、原田のお椀にご飯をよそった。

「そうだな……まぁ、俺は千鶴の作った飯が落ち着いて食えて嬉しいけどな」

お椀を受け取りながら原田が言うと、千鶴は頬を染めて微笑んだ。




他愛もない会話をしながら、部屋に響くのはお互いの音だけ…。




……夫婦みてぇ…



食事を終えて、千鶴の淹れた茶を手にしながら…ふとそんなことを思い千鶴を見つめていると、視線を感じた千鶴が首を傾げた。


「どうかしましたか?」


「いや……お前はいい嫁さんになるんだろうなぁって考えてた」




「なんですかっ急に」




また顔を赤くしてしまった千鶴に笑いながら、原田は続けた。

「飯は美味いし、気が利くし、面倒見もいいし、辛抱強いし……」


「その程度ならたくさんいますよっ」


手を振って否定する千鶴に、原田は尚も続けた。


「お前が笑うだけで華やぐし、皆元気を貰える…。それがてめぇだけに向けられたら…幸せにしてやりてぇって心から思う」
思わず私情が漏れたが、慌てる千鶴を見ていると不思議と恥ずかしさは無く、ただただ…伝えたくなる。


「お前はいい女だよ」



そして……もっと困らせたくなる。


「そうだ、"あなた"って言ってみてくれよ」


「な……なんでですかぁっ」


更に真っ赤になる千鶴。


「練習だと思ってやりゃあいいだろ」


妖艶な笑みを浮かべる原田に、千鶴は喉を上下させた。


思わず言いそうになり、口に手を当てて原田を睨む。




が、睨んでいると思っているのは千鶴だけで、潤んだ瞳で見上げられた原田は、余りの可愛さに思わず目を反らしてしまった。


「……いじわるです……」


震える声で告げられれば、原田の理性達が一斉に崩れだしそうになる。





反則だろ……。






なんとか平静を装って千鶴の頭を撫でながら、冗談だよと笑った。
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