薄桜鬼 小説
□ココロチラリ
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温かな光を放つ自分の家を見て口元を緩めて、斎藤は鍵を開けた。
「……ただいま」
「おかえりなさいっ一さん」
エプロンをつけたままの千鶴が出迎えると、斎藤は千鶴の首に顔を埋めた。
「ひゃっ!? は……一さん!?」
「美味しそうな匂いがする……」
「あ……! 今日は一さんの好きな揚げ出し豆腐です」
斎藤の反応が、好物の匂いに釣られたものだと思った千鶴は、身動ぐのを止めて笑った。
斎藤の鞄を受け取ってジャケットを脱がすと、『着替えてご飯にしましょう』と斎藤の背中を押した。
「あ…あぁ…」
千鶴にされるがままに寝室に向かいながら、斎藤は考えていた。
お見合いで知り合い……何だかトントン拍子に進み……結婚し、共に暮らし始めたが……。
チラリと後ろを見ると、寝室のクローゼットに斎藤のジャケットやらを丁寧にハンガーに掛けている千鶴がいた。
もうすぐで一年になるが……千鶴はワガママを何も言わない……。
気が利くし、優しいし可愛らしいし……何も文句は無いのだが……。
何かして欲しいとか無いのだろうか……。
部屋着に着替えた斎藤は、ワイシャツを手にして洗濯機に向かった千鶴を寂しそうに見送った。