薄桜鬼 小説

□ワガママは蜜の味
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ガシャンッ






まだ起床している者は少ないであろう朝の静けさを打ち破る音に、斎藤は眉を潜めた。


朝稽古で流した汗を拭いながら、音のした方へと足を向けると、そこは炊事場で……。



今日の当番は自分と沖田の筈だが……中からの気配に、斎藤は慌てて戸を開けた。





「千鶴っ!」




中では予想通りの相手が、割れた茶碗を片付けていた。



「す……すみません! すぐに片付けます」



「危なっかしくて見ていられん……どいてろ」



心配しすぎて少しキツメになってしまった言葉に後悔しつつ、斎藤は手早くそれを片付けた。


「すみません……ありがとうございます」



「このくらい何でもない……怪我はないか?」



漸く顔を合わせた時、斎藤は一瞬目を丸くしたかと思えば、直ぐに眉間に皺を寄せた。




きょとんとする千鶴の頬は赤く、瞳は潤んでいた。
悟られまいとしているようだが、呼吸は少し荒く、そういえば先程から動作が重々しい。



「千鶴……お前……熱があるな?」




斎藤の言葉に、千鶴はあからさまに反応する。

「な……無いです! 元気です!」



ほらっ! と千鶴は手をパタパタさせてみせるが、斎藤の射るような視線に段々と顔がひきつっていく。




「即刻部屋に戻れ」






ぴしゃんと言い放たれて、千鶴は泣きそうな顔になる。
それを見て、斎藤は少し胸を痛めたが、キツイ言い方をしないと頑固な千鶴は言うことを聞かないと分かっていたから引き下がれなかった。




千鶴は他人ばかり気遣って、自分はいつも後回しだ。





斎藤はゆっくりと溜め息を吐いて、千鶴の手を取った。



「やはりな……こんな熱で無茶をして何になる」





「でも……居候なのにゆっくりするなんておこがましいですっ!」




「風邪を甘くみるなと言ったのは誰だ」




「ぅ……」






でも……でも……と一向に引かない千鶴に、斎藤は強行手段を取ることにした。




ひょいと千鶴を肩に担いで、そのまま歩き出す。



「おっ降ろして下さい〜!」


ジタバタする千鶴だが、やはり身体に力が入らないようで、その抵抗は小さかった。

「あれ? 一くん……と……千鶴っ!?」



偶然通りかかった藤堂に、斎藤は事の顛末を簡潔に伝えて、自分の代わりに沖田と朝食の準備をして欲しいと告げた。

「総司一人にしたら朝飯食えるもん出ないだろうな……」



苦い顔をした藤堂は、了解と返事をして走っていった。





ふと大人しくなった千鶴の様子が気になり、斎藤は急ぎ足で千鶴の部屋に向かった。




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