薄桜鬼 小説

□指定席のキミ
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ガタン…ガタン……










電車に揺られる朝7時






目の前には小さな少女が一人


必死に人波と揺れに耐えている



左の肩口で緩く結われた髪に少し大きめのトートバックを胸に抱えて






熱気にやられたのか、脂汗が浮いてきて顔色が蒼白になっている。






「大丈夫か?」


土方は、思わず声を掛けてしまった。
かという少女は、少し驚いた表情をしたが直ぐに無理な笑顔で「大丈夫です」と言った。





彼女を初めて見付けたのは、2ヶ月前のこと。




相変わらず鮨詰め状態な車両の片隅で、必死になって踏ん張っていた彼女は、人波に押されてじわじわと土方の方へと流されていた。




そして急カーブに差し掛かった時、悲鳴と共に倒れ込む様に彼女は土方の胸に飛び込んできたのだ。



後から続くようにサラリーマン達が押し寄せて来たが、土方は反射的に少女を守ろうと抱き寄せて、背後の僅かな隙間に逃げ込んだ。



「す……すみません!」

土方の胸に埋まりながら必死に謝る彼女に、一目惚れしてしまったのだ。












彼女が降りるのは土方の降りる一つ前の駅





大学生になったばかりで一限が多いらしく、平日はほとんど会う。







とはいえ、話し掛ける勇気など持ち合わせていない土方が観察した限りでの情報なのだが……。





だから今日は……今日こそは話し掛けようと決めていた。




いつもの様に電車に揺られていれば、2つ目の駅で彼女が乗ってくる。




人波に押されて気づけば土方の目の前。



何て話し掛けようか迷っていると、彼女の異変に気付いていつの間にか声を掛けていた。






蒼白な彼女に、どこで降りるのかと、大学生かを問う。



「えと……あと3駅です……駅前にある学校なので……」



歩いてすぐだから大丈夫だと言うが、土方は放っておけるわけがなく……。


「テストか何かか?」


「え……いえ……」



「じゃ、次で降りるぞ」




半ば強引に言いくるめると、彼女の腕を取り、タイミング良く開いたドアに向かった。
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