薄桜鬼 小説
□電話越しのキミ
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「あぁ……スケジュールに問題は無いから、その日にするか……」
副社長室に響く低く落ち着いた声。
ここの前を通る者は息を止めながら歩けとばかりに静かに歩く。
社長はおおらかで人情に厚い人。
副社長は冷徹でミスを許さぬ完璧主義。
二人一緒でバランスが丁度いいのだろう。
互いに尊敬し信頼しあっているから、足りないところを補うようにして上手くやってきた。
内線を切って、土方は溜め息をついた。
手帳に新たに加わったスケジュールを書き足していく。
今週は休めそうにねぇな……。
チラリと土曜日のスケジュールを見ると、10時〜16時まで会議となっているが、他に比べて明らかに空白が多い。
胸ポケットからタバコを取り出して火を点けると、土方は暫く紫煙を眺めていたが、直ぐ様一枚の紙をバックから取り出した。
―雪村千鶴
それをそっとなぞって、私用の携帯を取り出す。
「ん?」
携帯のランプが光り、不在着信があったことを告げている。
まさかという淡い期待を抱きながら開いて、着信履歴を押す。
「…………っ」
慌てて留守番サービスに繋ぐと、アナウンスの後に可愛らしい声が聞こえた。
「えっと……あの……雪村……です! どっ……土曜日……じゃなくて……今日はありがとうございました! 大丈夫です! お礼させてください! えっと……失礼しました!」
聞き終えた土方は、思わず噴き出してしまった。
「くっ……ははっ」
涙目になりながら、土方は手帳の空白に予定を書き込んだ。
19時〜千鶴独占
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