薄桜鬼 小説

□強がりなキミ
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寂しい

会いたい


声が聞きたい


手を繋ぎたい


キスをしたい


抱き締めたい





欲望は、底抜けだ。













『出張ですか?』



電話越しの声は、いつもと変わらない鈴のような音色。



「あぁ……大阪に3日ほど行ってくる」







答えは分かりきってる。







『気をつけて行ってきてくださいね』













仕事と自分どっちが大事なんだと問い詰められたりは日常茶飯事だったこれまでの恋愛。
千鶴と恋仲になってからは、無欲な千鶴に有難いと思いつつも不安が募る。











電話を切って、暫く携帯を見つめていた土方は、溜め息を吐いた。





大人ぶってる俺が、言う台詞じゃねぇよな……




付き合って半月


千鶴にとっては土方は初めての恋人







甘え方も何も知らない彼女に、教えるのは俺の役目……だよな。








口角を上げると、土方は車のキーを手にして部屋を後にした。














―星が綺麗だから外見てみろよ









千鶴の家の前に車を止めた土方は、そうメールを送った。




すると仄かな灯りがカーテンの隙間から見えて、窓越しに千鶴が映る。




それを確認してから電話をすると、千鶴は1コールで出た。

「見えるか?」


「はい! 綺麗ですねぇ……」



うっとりとした声に、思わず笑ってしまう。




「なぁ千鶴」


「はい?」


「明日から三日間殆どメールも電話も出来ないと思う」


「そう……なんですか?」


「悪りいな……」


「いえ! お仕事ですから! えと……その……」



頑張ってくださいね!




電話越しの声は明るかったが、窓越しの表情は明らかに暗かった。




「…………っ……」





不覚にも……嬉しいと思ってしまった。


俺は愛されているんだと……自惚れていいんだと……。







「千鶴……出てこいよ」









たっぷり甘えさせて



ハグをして

キスをして



愛してると



強がりなキミに全身で伝えよう……









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