薄桜鬼 小説

□触れた指先が覚えてる
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それは偶然で



もしかしたら必然だったのかもしれない










大好きな本屋さんで見つけたのは、ずっと探していたもので……。






「よ……いしょ……」




爪先立ちで必死に手を伸ばしたけれど届かない。



……あと身長が10センチあれば……。




空を斬る指先が悲しくて、周りに脚立とかないか視線を巡らせようと背伸びを諦めた。



すると



「はい、どぉぞ」





目の前に差し出されたのは、お目当ての本。




「あっありがとうございます!」


慌てて頭を下げると、クスクスと笑い声が聞こえた。




「この本を欲しがるなんて、君は変わってるね」



猫のように細められた瞳には、少しムッとした顔をした私の顔。





「私の尊敬している人の本なんです」





それは画集で、淡い色使いと不思議な世界観が大好きだった。



その人の絵には必ず少女が描かれていて




でもいつも後ろ姿で






それを見ると、どうしようもなく泣きたくなってしまうのだ




「探し物が見つからないんだよ」



「え?」



「その人は探し物が見つからないんだ……探し物が分からないんだ」




大事なものを思い出したい



でも忘れていたい




「……」


首を傾げる私にその人は、"本、受け取らないの?"と苦笑した。




慌てて受けとれば、指先がほんの少しその人の指に触れた。






ポタッ……








知らぬ間に涙が溢れて、慌てて拭ってその人を仰いだ。













その人は、さっきと同じ苦笑した表情のまま









けれどその瞳からは涙が止めどなく溢れていた。











触れた指先が覚えてる






愛しい人を見つけたと





指先だけが覚えてる









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