薄桜鬼 小説
□全部ハジメテ
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会社帰りに寄ったという彼女は、淡いピンクのストライプのYシャツにチャコールグレーのタイトスカートを履いていた。
ほんのりと赤みがかった頬と反して真っ白な首筋が妙に色っぽい。
他愛も無い話しをしていると、ふと彼女の右手の薬指にシンプルな指輪が光っているのが気になった。
「彼氏いんのに一人酒か?」
ちょっとからかうつもりで彼は聞いたのだが、彼女の表情が一瞬曇ったのを視界の端に捉えると、眉を潜めた。
「同じ部署の人と付き合っていたんですけど……今日急に別れようって言われちゃいました」
付き合って間もなく一年になる所だったのに、違う課の女性と浮気をしていた挙句、そちらのがいいから別れようと言われたらしい。
「酷ぇな……」
「お酒呑んで……酔った勢いで指輪も捨てられるかな……なんて思ったんですけど……」
そんなに上手くいくわけないですよね、と笑う彼女を見て彼は手にしていたお猪口を一気に仰いだ。
「明日は仕事か?」
「いいえ?」
「俺も休みだから、いくらでも付き合うぜ」
空になったお銚子を店主に渡して追加をすると、彼はきょとんとしている彼女の頭を撫でた。
「偶然一緒になった飲み屋で、気まぐれで俺が声掛けて……」
可愛い子が泣きそうになってんのに、独りには出来ねぇよ。
「これも何かの縁だろ」
とことん付き合ってやるよ。そいつを捨てる勇気が出るまで……な。
「頭……痛ぁ……気持ち悪ぃぃ……」
街灯の元、覚束無い足取りで歩く彼女の身体を支えるように歩いていた彼は、もう限界だと踞ろうとするそれを慌てて制すると、思いの外自分も酔っていたのだと霞がかった頭で彼は思った。
「家はどこだ?」
「う〜……」
「おい?」
完全に眠りについてしまった彼女を抱き上げて、大通りに出たところでタクシーを拾うと、帰り慣れたマンションを目指した。
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