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□悪ノ娘
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―待ってるよ


絶対、助けに来てね。

ずっと、待ってる。

ずっと、ずっと。

私の命尽きるまで…


――――

荒れ果てた 地。

何も無い。
何も残っていない。

無い、無い、無い―…。

物も、人も、
風も、海も、草も…。

あるのは大地と、空。

そして、自分…。

64年前のこの大地は
素晴らしい王国だった。

――――64年前

「女王様―…。」

レン=ルナワーニャ。
美しい王国の女王、リン=ヴェカールワールの従者であるレンは 女王に寄る。

リンは、何も答えない。

唯、真っ直ぐに塔の上から民を見下ろす、のみ。

彼女の髪型はツインテール、服装は黄色の布地に黒いラインがひかれ、薔薇やリボンがちりばめられたもの。

人形のような顔だち、珠のような肌の色、誰から見ても、美しい姫だった。

けれど、一つ彼女に欠けていたもの、できなかったもの、それは『喋る』こと

何があっても喋らない。

「女王様、お飲み物は…。」

レンがポットとティーカップを手に取る。

リンは何も言わない。

いや、寧ろ(むしろ)
何も聞こえていないよう。

彼女の目は虚ろ(うつろ)に開かれ、何を見ているのか、何も言わずに立ってる。

――――私は、何を、見ているのかしら。

「女王様?」

――――あれは何。

「女王様…どうかなさいましたか?」

――――此処は、何処

「女王…様?」

どんなにレンが呼びかけても、彼女の耳には届かない。

――――あ、そうだ。

リンはずっと、立ったまま。

――――マスター、は?

リンが言葉を発しないのをレンは知っていた、いや、全ての民が知っていた。

「女王様は 誰かと 御結婚はなさらないのですか?」

レンは答えもしないリンに向かって言う。
彼女の 耳に、心に 届くと信じて―…。

けれどまた、今回も届きはしなかった。

彼女は無視しているのではないし、聞こえないフリをしているのではない。

何も、聞こえないのだ。

例えるならば、野良猫。

野良猫は自分の意志で動く。
しかし人間の言葉は耳に届かない。
聞こえていても、意味が分からない。

“声”として聞いてない。
一つの“音”として聞いているだけ―…。

     、、、、、
そもそも、聞いているという例えがおかしいのかもしれない
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