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□右肩の蝶
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右肩の蝶


右肩に刺青(いれずみ)。
紫色の蝶の刺青。

綺麗で、鮮やかな刺青を右肩に入れた君。

振り向いた時に揺れる金髪。

靡くスカートの裾。

「レンっ…!」

透き通るような綺麗な声とともに向けられる笑顔。

でも、分かってた。
ずっと、ずっと前から。

知ってたよ。

…こんな恋、

虚しいだけだって事。


僕には一つ上の兄さんが居た
…いまは死んで居ないけど。

その兄さんとリン―彼女は付き合っていたんだ。

お似合いの二人でさ。

僕は、嫉妬してた。

リンが、兄さんにかける声。


―愛してるよ、ラン…!

愛してる。
僕もリンに言われたかった。

言わなくてもいい…。

ただ。

その笑顔を向けて欲しかった




でも。

僕の兄さんがいる限り、この願いは叶わない。

そう。

兄さんがいる限り。
兄さんがいる限り。

あの、兄さんがいる限り


…だから。

僕は兄さんを殺したんだ。



彼女は泣いてた。

僕は気付いたんだ。

リンが、愛していたのは、僕の兄さんであって…。

僕では、なかった。

知ってたはずなんだ。

だけど、理解出来なかったんだ。

もし分かっていたなら。
…そして、理解してたなら。

僕は、兄さんを殺しはしなかっただろう。

ほんとうにリンに僕が恋をしていたなら…。

リンの幸せを考えたら…。



兄さんを殺しはしなかっただろう。

「…うぅ…。」



一人、震える闇の中。
静かに、眠りに落ちた。
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