虚無に咲いた笑み

□夢
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兄さんの顔は私とは対照的に左側に包帯を巻いている

兄さんは穏やかな表情をして私に目線を合わせるように片方の膝を地につけてかがむ

それでも少し高い兄さんの目線


何かがおかしい


私はそばにある池の水面に映る影を見ると幼いころの私と目があった


体が縮んでいる?



否、私はこの光景を知っている

これは幼い時の記憶


私は夢の中で追憶しているのか


そんなことを考えていると兄さんは少し遠慮がちに私の頭をそっと撫でた


「鏡羅。もう邪魔するものなどいない。」

鋭く突き刺すような冷たい声

―――邪魔?なんの?


私は兄さんの言っている言葉の意味がわからず聞き返そうとしたが



「・・・・・」



声が出ない


「怖がらなくとも良い」



兄さんは私が怖がっているから声がでないと判断したのか、さっきよりも声を和らげた


「この家の者は皆死んだ。私が殺した。」


表情のない声色で話しながら兄さんは冷たい手で私を撫で続ける

私は無意識に兄さんの首を見ていた

兄さんの首には深く斬りつけられている

死は免れない程に、それでも兄さんは平然としている



「私も・・・不死身だ」

兄さんは私の視線に気付いてか、私の頭から手をのけて羽織りを細長くちぎり手慣れた様子で首に巻き付けた

まだ固まりきれていない血が首に巻いた布切れにじわりじわりと滲んでいく


兄さんも不死身?


「鏡羅。私と共に行こう。」

兄さんは立ち上がり私の手を引いて歩き出す









「待て・・・」




背後で誰かが苦しそうに制止の声を掛ける

「まだ生きておったのか・・・」


兄さんは私の手を握ったまま歩みを止め


「貴様もしぶとい人間だな・・・」

喉をえぐるような冷たい視線を向けながらゆっくりと振り向いた


兄さんの背でその声の者の姿が見えない



私はそっと体をずらしその声の主を見た


「貴様も私の邪魔をするのか」

そこには今よりも幾分か若く



黒い忍装束を着た


切り傷だらけの




「ならば貴様も殺してくれようぞ。





峰庵」




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