虚無に咲いた笑み
□夢
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しばらく月を眺めていると
背後に人の気配がする
小十郎の部屋の襖が僅かに音をたてながら開き
「鏡羅」
中から髪を下ろした小十郎が出てきた
「起きていたのか?」
そう問いかけたのは鏡羅の方だった
寝起きとは思えないほど小十郎は意識がハッキリしているように見えた
「お前がうなされている時からな」
小十郎が前髪を掻きあげながら言いにくそうに答えた
「・・・起こしてすまなかった」
「気にするな。俺も今日は少し寝つきが悪かったんだ」
水を打ったような長い沈黙
風もなく辺りはまるで時が止まったかのように静まり返っていた
「首・・・痛くはねぇか?」
沈黙を破った小十郎の声に答えるように鏡羅はそっと自分の首に触れる
痣が酷いのか、それを覆い隠すように幾重にも包帯が巻かれていた
指先が触れるとゆっくりと布に水が染みていくかのような痛みが走る
「痛くない」
「嘘をつくな」
小十郎は僅かに痛みに顔をしかめた鏡羅の表情を見逃さなかった
首を触れていた鏡羅の手に重なるようにして小十郎は手に触れた
「痛いなら痛いと言え
辛いなら辛いと言え
苦しいなら苦しいと言え」
小十郎は鏡羅の手を壊れ物でも扱うようにそっと握る
「俺は鏡羅のすべてを受け止めてやる」
二人しかいないと感じさせる程静かな世界に響き渡せるかのように
小十郎は迷いの無い声でそう告げた
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