novel

□ACCESS
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毎日何本もの電車が行き来し、大勢の人々が行き交う巨大ターミナル駅に隣接するように立つこのビジネスホテルのフロントマンとして働いてから三年が経とうしていた。

「今日は…あ、もうこの日か」

今日チェックインするお客様の予約リストを見ていると、ある一人の名前で目が止まる。

「真田様。今日も五時チェックインか」

真田幸村様。
毎月決まった日に利用する彼はいつも同僚の猿飛佐助と地方に出勤する前日にここを利用している。と、二人が話している内容で覚えた彼の情報だ。
ただの常連客という枠を越え俺は業務的な会話しかしたことのない彼に密かに好意を寄せていた。




夕方五時を境目に、フロントに立つ俺の視線は何度も時計と入り口を往復していた。
何度目だろう、入り口の自動ドアが開く音に視線を送れば、心待ちにしていた彼の姿。
いつものようにブラックスーツに紅のネクタイがよく彼に似合っていた。

「いらっしゃいませ」
「今晩は。五時に予約した、」
「真田様ですよね。いつもありがとうございます」
「覚えて…?」

驚いた後すぐにありがとうございます。と笑顔を見せた彼に頬が熱くなる。
バレないように慌てて視線を外してそこで気付いたのはいつも一緒に居る猿飛佐助の姿がないことだった。
朝、予約を確認したリストをもう一度目を通すがいつも通り部屋はツインで予約を受けている。

「あの、今日はいつも一緒の方いないんですか?」
「あぁ、佐助ですか?今日は別件でトラブルがあってそっちに」
「そうなんですか」

受付も終わり、ルームキーを渡す。今日の彼との会話は終わりだと少し残念に思っていると、渡したルームキーを返された。
不思議に思って顔を上げる。

「酷いのですよ?」
「…えっと、何がです?」
「佐助です。某が今回一人で泊まるからってちゃんと朝起きれるのかとか支度は出来るのかと心配するのです。某は子供ではないのだ」

納得いかないようにふてくされた顔をしたかと思った次の瞬間、流れるように自然に手が動くと返されたルームキーを指で叩く。それに続くように片肘を付き手に顎を乗せて見上げられる。
その仕草はいつも見る彼の幼い仕草とは違って挑発するような妖艶で危険な笑みに変わっていて、自分の持ち合わせる全ての感覚と神経を奪われたように目を合わせたまま動けなくなってしまった。

「なので確認して頂きたいので部屋まで来ては貰えませぬか?」
「…え、どういう?」
「伊達さん、もう仕事終わりですよね?前に何度か五時で仕事を終わらせてるのを拝見いたしております」
「いや、あの…確かに五時で終わりですけど、」
「それにベッドが二つもある部屋に一人でいるのは広すぎるし虚しすぎます」

断るのが当然だ。
頭では分かっているのに、彼に好意を寄せている己には望んでも叶わなかったはずの彼との急接近に動けなかった体は嘘のように自然と首を縦に振っていた。
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