novel
□Spring Breeze
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「政宗殿、ほら早く手を動かしてください」
「おー」
「政宗殿っ!」
窓の外の雪はなくなり、政宗のアパートの外の木々も朝露に太陽の光を浴びキラキラと光っていた。忙しなく動く幸村を後目に政宗は床に座り雑誌をペラペラと捲っていた。
「政宗殿」
ダンボール三箱を運び終わったところで、さすがの幸村も堪忍袋に限界がきたのか、政宗の前に仁王立ちして見下ろした。
そのあまりの剣幕に政宗は開いていた雑誌をパタリと閉じた。
「Sorry…」
「政宗殿の荷物ですよ!?」
「悪かったって」
「自分で仕分けると言ったんですからね!」
「んな怒んなよー…、んむっ…んーっ…!」
笑って誤魔化す政宗に幸村はしゃがみ込むと、強引に口付ける。
バタバタと政宗が暴れて唇を離すと、その笑みの恐怖に喉がヒュッと鳴ってしまった。
「そういう事ばかり言ってると此処で押し倒しますよ」
「…ちゃんとやります」
政宗の言葉に幸村はニコリと笑うとまた忙しなくダンボールを運び始めた。
「アイツ最近小十郎に似てきたな…」
「なんですか?」
「何でもねー!」
目敏く聞き耳を立ててるとこまで似てきていやがる。
うげぇ…と項垂れながら政宗は仕分けを続けた。
幸村と政宗が出逢って五回目の春。
二人は一つ屋根の下で暮らす事になりました。
「終わったー…!」
「お疲れ様です」
「Thank you」
ダンボールが床に幾つも積まれている。
ガムテープとマジックが床に転がったまま政宗はベッドに寝転んだ。
幸村はそんな政宗に缶ビールを差し出すと、政宗は起き上がりそれを受け取るとプルトップを開け、幸村の持つ缶にカツンと合わせると一気に喉に流す。
「…はぁぁ、うめぇ」
初めて飲んだ時はただ苦みしか感じなかったのに、今ではそれを旨いと感じる。
「年とったなぁ、俺も」
政宗はしみじみと呟き乾いた喉にビールを流し込む。
「その台詞の方が年寄りくさいですよ」
「うっせ」
しれっと言う幸村に軽く蹴りを入れるが、それでも顔を見合わせれば二人はすぐ笑顔になった。
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