novel

□vanilla
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「離せっ!」
「嫌です」
「調子に乗りやがって!」

バスルームで幸村はジタバタと暴れる政宗の両手首を片手で掴んで壁にいとも簡単に押さえ込み、空いているもう一方の手と舌をしっとりと濡れる政宗の肌に這わした。




「え?帰って来れない?」

「じゃぁ、よろしくね」母がそう言って父と出て行ったのは朝も早い時間だった。
相も変わらず仲の良い両親はデートだと浮かれて出て行った。
政宗は眠い目を擦りそれを見送るとまだ寝足りないと自室に戻りベットに倒れ込み二度寝を開始した。
それが今朝の事。

『そうなのよー、つい楽しんじゃって電車乗り遅れちゃった』
「いい年して…」
『で、タクシーで返るのも疲れるし、お金勿体無いから。こっちのホテルに泊まって明日の朝帰るわね』
「はいはい」

母は今朝と同じ台詞を繰り返してご機嫌で電話を切った。
政宗は受話器を見つめため息をつくと静かに受話器を置き、政宗はリビングへ振り返った。
そこにはソファーに座りテレビを見ながら笑う幸村。
電話が終わったのも気づいてないみたいだった。

「今日帰って来ないってさ」
「え?」

ソファーに座る幸村の隣に座り、唐突に言う政宗に聞き取れなかった幸村は政宗に振り返り聞き返す。

「父さんと母さん。電車乗り遅れて今日はホテル泊まって明日帰ってくるってよ」
「そうですか。相変わらずですね」
「あ。幸村まだテレビ見てるだろ?オレ風呂入ってくる」
「はい、いってらっしゃい」

幸村に見送られた政宗はバスルームに向かい、パッパッと服を脱ぐと軽くシャワーを浴び湯船に使った。
防水されている音楽スピーカーから曲を流し、目を閉じて鼻歌まじりの政宗には脱衣所のドアが開いた音やガラス越しの人影に気づくことはなかった。

「お背中流します」
「…ッ!?」

ガラッと音を立てて入ってきた幸村の姿に政宗は目を見開き背を預けていた湯船から体を起こした。


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