novel

□Smile
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「真田幸村」

呼ぶとニコリと笑顔が返ってくる。
今日も真田幸村は笑顔だ。







担任に頼まれたプリントを隣のクラスへと運ぶ。
目当ての人間は和の中でニコニコと笑っていて、廊下まで呼び出しプリントを渡す。
A4くらいのホワイトボードに『ありがとうございまする』と書かれた字。

「礼くらい口で言いな」

そんな最低な事を言ったのが今から半年前。
二年になってクラス替で同じクラスになり席が隣同士になった。
半年前、振り返ることなかった俺はあの時真田幸村がどんな顔をしていたのか知らない。
ただ、分かっているのはあの時の自分は最低だった事だけだ。







「真田、俺らの部屋は三階だ」

政宗の声に幸村はいつもと変わらない笑顔で頷いた。
修学旅行で同じ部屋になった政宗たちは何故か他のクラスメートの泊まる階から離れたひとつ下の階。
本来賑やかなはずの廊下も静かで、日頃あまり喋らない政宗と喋れない幸村だけの部屋もその静けさに気まずさを感じ始めていた。

「テレビ…見るか?」
『はれんちなのは嫌でござる』
「見ねーよ!」

ホワイトボードの文字と困り顔に思わず声を荒げれば、笑っているのか大きく口を開け笑顔を見せた。

「だいたい有料channelになんか興味ねぇよ」
『金がないでござるか?』
「あのなぁ」

ニコニコと笑う幸村に遊ばれるような筆談に政宗は調子が狂うとガシガシと頭を掻きながらテレビの電源を入れた。

「いかにもLocal番組だな」
「…」

地元の観光地を紹介している旅番組。
ボーっと画面を見つめる幸村を余所に政宗はつまらないとベッドに寝転がった。
明日は何処に行くんだっけな、と取り出したしおりを見ているとくいくいっとシャツを引っ張られる。

「ん?」
『ここに行きたいでござる』

ホワイトボードを見せながらテレビを指差す幸村に政宗が視線を移す。

「団子の老舗…って、団子?」

政宗がまた幸村に視線を戻せば、大きく縦に首を振り、にぱぁと行きたいオーラを全開に見せる。

「…あー、まぁ明日は自由行動だから班の奴らに行って変えて貰えば…」
『政宗殿と二人で行きたい』
「ah?…俺と?」
『嫌にございまするか?』

しゅん…と項垂れる幸村に政宗は軽くため息を吐くと体を起こす。

「Ok.付き合ってやるよ」

政宗の言葉に嬉しそうに笑みを見せるとぺこりとお辞儀をした。


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