novel
□春夏秋冬
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−春
忘れたい。
忘れられない。
涙は流さないと決めた。
−夏
じっとりとした暑さ、充満する血のニオイと埃。
目の前の戦で掻き消した。
−秋
鈴虫の音色に目を閉じる。
ふと熱くなる目頭に思い出す、初めて繋がったあの日を。
−冬
嫌い。
雪の中、振り返る。
視線が合うことはなかった。
別れを予感させた。
「政宗様」
「なんだ、小十郎」
季節は巡り、あの日から三度目の夏を終わろうとしていた。
奥州を統べる政宗は毎日届く書状に目を通す日々に追われ、求められる返事に筆を忙しなく滑らせていた。
「文が届いておりまする」
「先に目を通さなきゃならないのがある。そこに置いておけ」
「いえ、それが使いの者を寄越し早急に返事を、と」
「Ah? 誰だこの俺にそんな、」
「真田幸村です」
「…っ!」
筆の動きが止まる。
小十郎に視線を移せば、自分と同じく何故今更と、そんな落ち着かない顔をしていた。
「…使いはあの忍か」
「は…」
「…通せ」
「…承知致しました」
小十郎が部屋を出て行き、政宗は震える手を必死に押さえていた。
小十郎が置いていった文に恐る恐る手を伸ばした。
「久しぶりー」
「…相変わらずだな」
「えー、前より男前が上がったでしょ?」
手を振りながらにこやかに話すその姿は最後に見た時と少しも変わっていなかった。
佐助が政宗の前に腰を下ろすのを見届け小十郎も佐助と政宗の間に腰を下ろす。
「おい武田の忍、これは何だ」
「何って恋文ってやつでしょ、どう見たって」
「……けんな」
「政宗様…」
「ふざけるな!ヘラヘラしてこんな物持ってきやがって!返事なんて決まってる、とっとと帰りな」
手の中の幸村からの文がグシャリと皺を寄せる。
背を向けた政宗にあからさまにため息を吐く佐助に小十郎が睨みを利かせる。
「今なら分かるでしょ?あの時の旦那には、」
「返事を書けば帰るのか」
「…え?あー、うん」
「なら今すぐ書く、あっちで待ってな」
「……。はいよー」
「小十郎お前も外せ」
「…は」
一人きりになった政宗はもう一度強く手を握る。
怒りと悲しみ、…喜び。
政宗はハッとして首を振った。
例えようのない感情が躯を熱くさせる。
手の中の文を広げて読み返す。
綴られた言葉に自虐的に笑うと政宗は筆をとった。
季節は秋を迎えようとしていた。
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