novel

□虎視眈々
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「じゃあな」
「それでは」

結局、関ヶ原での決着がつかず幸村と政宗は家康と三成、慶次に見送られ馬を走らせていた。

「政宗殿、奥州は遠ござる。是非甲斐に参られよ」

幸村の言葉に甘え甲斐へと向かう途中、隣を走る幸村にチラリと目線を送る。
幸村は変わった。
見慣れた甘えを含んだ一武将でしかなかった頃とは違う、大将となり凛々しくなったその横顔を盗み見ていた政宗の視線に気づき幸村が振り返る。

「いかがなされた?」
「いや…何でもねぇ」
「…?」

視線を前に戻し言葉を濁した政宗に幸村は首を傾げた。
それから何度か政宗の方へ視線を送ったが一度として政宗と目を合わせることはなかった。









「世話になるな」

他の部屋とは別格の客間に通される。
政宗の屋敷の絢爛豪華さとは違った落ち着いた趣の部屋だが、それが逆に政宗は気に入ったように部屋を見渡す。

「小十郎を見てねぇか?」
「片倉殿は何やら甲斐の田畑に興味を…」
「またかよ…」

家臣・小十郎の相変わらずの行動に酔狂がすぎる、と呆れる政宗。

「お疲れでござろう?湯の準備が出来ておりますので」
「…一緒に入るか?」
「……おぉ!お背中流しを某に!」
「……っとに、鈍いやつだな」

そんな政宗の呟きが幸村に聞こえるはずもなく、光栄にござると意気込む幸村に案内されるまま屋敷を歩く。

「あ、独眼竜!」
「…なんだ忍」

ここで会ったかと佐助が政宗を呼び止める。
すぐ側には満足そうに野菜を抱えた小十郎の姿。

「全く!片倉の旦那のこれ何とか出来ないの?何で忍の俺様が畑まで案内しなくちゃいけないのよ!」
「小十郎、外では控えろ。ちと酔狂がすぎるぜ?」
「申し訳ございませぬ、政宗様。ここに来るまでの田畑があまりにも立派な上に奥州では見たことのない野菜がありまして。やはり土の違いが大きいのかと」
「そうかよ」

呆れ口調の政宗に今から御台所に行き明日の朝餉用の和え物を作るのだという。
付き合わされる佐助にこの時ばかりは同情した政宗だが小十郎のこと後の始末は自分でするだろうと、片倉殿のお役にたててよかったのう佐助とお門違いな言葉を掛ける幸村に目配せした。

「小十郎ほどほどにしておけよ」
「…は」
「行こうぜ真田幸村」

スタスタと歩き始める政宗を慌てて先行する幸村にニヤァと厭らしい笑みを浮かべた佐助は先程とは打って変わって、ご機嫌に小十郎の背中を押した。


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