novel2

□蒼き姫君
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※この話は政宗(♀)設定です。
苦手な方は回れ右してください。












1615年、夏。
新しい時代の幕開けに相応しいくらいの快晴。
ここに甲斐の真田幸村の時代が始まりを告げる。

「真田幸村…ね」
「政宗様?」
「小十郎、話がある」
「…は、」







そして、季節は巡り翌年の春。
庭に咲き誇る満開の桜を目の前に幸村は呑気に団子に手を伸ばし、ずずず…と茶を啜っていた。

「幸村様っ、いい加減にしないと明日からお団子禁止にしますよ!」
「佐助ぇー、様付けは止めろと申しておるであろう」
「いやでもさー、周りに示しがつかないでしょーよ。つーか、団子没収!ちゃんとコレに目を通してくださいっ」
「あぁっ、団子ぉーっ!」

幸村の前から団子の乗った盆を取り上げると佐助は幸村の前に巻物を置く。
ふてくされる幸村はそれに目をやると手を伸ばす。

「何なのだ、これは」
「幸村様の御正室になられるお方についてです」
「…絵か?」
「有名な絵師に描かせたらしいよ」
「それが何なのだ」
「いや、だから」

幸村は巻物を開くことなく佐助に突き返す。
ため息を漏らした佐助は変わりに紐を解き、巻物を開く。
そこには片目が前髪で隠れた女。
それでも気高く気品を帯びているその姿に幸村は目を奪われ、そしてどこか見覚えがある気がしてならなかった。

「…、某は見た目で人を判断せぬ。それに正室など要らぬ」
「そうもいかないでしょうよ。後継ぎいなきゃ真田の家もすぐ終わってしまいますよ。それに身分も上々よ?なんたってお相手は奥州は伊達の姫君だし」
「…伊達の姫君?あそこには嫡男の政宗殿だけだと思っていたのだが」
「女だよ」
「佐助?」
「伊達政宗は女だ、真田の旦那」

今ではあまり聞くことのなくなった“真田の旦那” の響きを懐かしむ余裕もなく、幸村は驚愕の表情で佐助を見る。

「伊達政宗が女…?」
「伊達家安泰のためだろうね。伊達は一応徳川方についてたし、真田は領地も石高も今まで通りとは言ってるが、この先何があるかわからないし、奥州は日の本全てを把握するにはちょっと北にありすぎるし」
「ちょ、ちょっと待て佐助!」

訳が分からない、と困惑する幸村。
先の大戦で相対したが、伊達政宗は推参を掲げ大将ながら先陣にて軍を率いて戦場を走る凛々しさと勇猛さは一際目を引いた。
あのような、武人が女…!?

「まったく…。俺様が目を通しておいてくださいって言ったものをちゃんと確認しないからですよ。いい?伊達政宗は本来の伊達家嫡男である病弱な弟の代わりに幼少期から男として育てられた。先の戦で日の本を真田が平定したことにより本来の嫡男である弟に家督を譲ってこの真田家に輿入れしたいと側近の片倉殿が直々に来たの。幸村様、勝手に城抜け出して鷹狩りなんか行っちゃったもんだから会ってないけど」

幸村様が呑気すぎて、俺様困っちゃうと怒り顔。
開いた絵巻の横に小十郎持ってきた文を置く。
まだ半信半疑の幸村はその描かれた女を見て動きを止めた。

「兜かぶった姿しか見たことなかったからさー、こんな美人さんとはねー」
「……。…眼帯はそのままなのだな」
「あー、疱瘡になったのは本当らしいね」

女にしては珍しい蒼の着物を身にまとい、まとめることなく肩につく黒髪。
前髪から覗く切れ長の目には戦場と同じ凛々しさを感じる。
そしてそれは彼と彼女が同一人物だと気づかせるには充分だ。

「…政宗殿は輿入れには、」
「安心してー。政宗様からのたっての願いらしーよ」
「…そうか。佐助すぐに返書を書く。お主の足で届けてくれ」
「見た目で判断しないんじゃなかったの?」
「判断などしていない」
「ん?」
「部屋に戻る」

幸村はすぐさま立ち上がり、自室へ向かう。
「何だあれ」

佐助は首を傾げたが、その余韻に浸る時間などは当然なく、配下の忍びを呼ぶ。

「お呼びですか、長」
「急ぎで奥州までの道を確保しておいてくれ。それから俺につくのを二人。残りで城の護衛を強めてくれ」
「御意」



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