novel2

□三成編
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「いらっしゃいませー」
「いつもの」

賑やかな街並みから少し外れたこのカフェに通い始めてからもう2年になる。
店長である毛利とは古い縁だ。
三成はいつものように店の一番奥のテーブルに座ると、やってきた店員に素っ気なく注文をして持ち込んだパソコンを開いた。

石田三成、大学生兼小説家。
講義が終わるとほぼ毎日こうしてこのカフェに足を運び小説を書いている。
ランチの時間帯は賑わっているらしいが、平日の夕方、この時間帯は客もまばらで比較的静かに過ごせる。

「よう」
「貴様は相変わらず接客に向いていないな」
「Ha!俺目当ての客で持ってるようなもんだぜ、この店」

三成がメガネを掛けるのとほぼ同時にカチャと音を立ててテーブルにカフェモカが置かれ、そしてその横暴な店員を睨み上げる。
伊達政宗、三成の大学の後輩だ。
生意気で俺様な言動にも関わらず、本人が言う通り週末ともなれば政宗目当ての女で店内が埋め尽くされるという。

「貴様のせいで平日しか来れぬではないか」
「んなこと知らねえよ」
「石田、たまには売り上げに貢献しろ」
「何を言うか毛利、毎日来てるだけでも貢献しているではないか」

やってきたのは店長の元就。
いつもカフェモカだけの三成の前にメニューを差し出すが、それに目も繰れない三成はカップに口をつける。

「あ。そーだ俺アンタの本読んだぜ?」
「…そうか」
「俺は前回のミステリーのが好きだなー」
「ふん、石田のミステリーは手緩くて我は好かん」
「その手緩いミステリーは来年映画化が決まったがな」
「マジかよ?すげえな、相変わらず」
「その印税を我の店に落としていけ。減るもんでもないだろう」

心地の良いBGMに似つかわしくない三成たちの会話はカウンターの中の店員にも聞こえ、店員たちはまた始まったと、その光景を楽しそうに見て笑っている。

「いらっしゃいましたでござるーっ」
「…げっ、幸村!!」
「お、今日も来たかカモめ」
「…また毛利さんアイツにシフト教えやがったな!!」

政宗が幸村と呼んだ男は、カフェにいた客も思わず苦笑いするほどの大声で店内に入ってくるとキョロキョロと誰かを探している。

「あ!政宗殿っ、こんにちはでござるっ」
「アンタも懲りねえな、毎日毎日」
「いやー、毛利殿には頭が上がりませぬ」
「猿飛が新作を作ったぞ真田。当然食べていくだろう?」

幸村は政宗を見つけると3人の前にやってくる。
飽きれ顔の政宗と企み顔の元就。
三成はチラリと幸村を見ると、パソコンへと視線を変えた。

「いつものか?」
「はい、政宗殿の淹れてくれるココアが一番でござるっ」
「誰が作ったってあの味だ」
「そのようなことないでござるーっ。あ。石田殿こんにちはでござるっ」
「あぁ…」
「ほら、さっさとカウンター行くぜ?」
「待ってくだされっ、政宗殿っ!」

幸村は三成に頭を下げると政宗の後を追ってカウンターの右端に座る。
最近、あの席は幸村の特等席のようになっている。
三成が視線を移せば、カウンター越しに政宗とデザート担当の猿飛佐助が幸村と楽しそうに話している。

「…最近、伊達は真田が来ると悪態を吐くくせに随分柔和に笑うようになったな」
「つまりはそういうことなのだろう」

元就はそれだけ言うと三成の前から離れていった。
三成は少し賑やかになった店内を気にすることなく、パソコンに視線を落とした。


それから数ヶ月後、三成はいつものあの席で元就から政宗と幸村が付き合い始めたと聞かされた。






「いらっしゃいませー」
「おぉ、石田ではないか」

学生の頃と違って最近は自宅で執筆することのが多くなってきた三成だったが、笑顔で締め切りを早めてきた編集に腹が立ち、苛立ちを抑えるため編集を部屋に置き去りにしてカフェにやってきたのだ。



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