novel2

□Bitter or sweet?
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卒業を間近に控えた今、その存在は日毎に脳内を侵食していく。

「なんだか、輝きが増してる気がする」
「…へえ」
「おい、真面目に聞けよ」
「何で俺様が政宗の恋愛を真面目に聞かないゃいけないのよ」

三年の教室から校庭を見下ろせばその主は生徒と交ざって楽しそうにサッカーボールを追いかけている。

「顧問が一緒にやるか?普通」
「あの先生はそーゆー先生じゃん」

政宗が机に頬杖ついて可笑しそうに笑うその横で、級友の佐助はつまらなそうにマンガをパラパラと捲っている。
適当な返しの佐助にプロレス技をかけていると、ふと校庭から視線を感じる。

「あ、」

政宗が声を漏らしたと同時に彼はまた生徒の中に戻っていってしまう。

「…なんだ、この浮気現場を見られたような気分は」
「勝手に俺様をホモにしないでよ」
「Ah?こっちだってテメエなんか願い下げだ」
「あら、珍しく意見が一致したね。てか、離してー」

教室では「政宗と佐助がじゃれてる」と女子たちが騒いでいるが、そんな声など耳に入らない政宗はパッと佐助から腕を離すと再び校庭に視線を移す。

「てか、今更だけどさー。なんで真田センセなわけ?」

政宗なら女の子に困らないじゃない、と佐助が解放された首をコキコキと鳴らしながら問い掛ける。

「…だからキラキラしてね?アイツ」
「…中二病?」
「ざけんな、ちげー。真田はなんかそこら辺にいる奴らとなんか違えんだよ」
「俺様にはよくわからないけど、あの人キラキラっていうより、ギラギラじゃない?」

真田幸村。
政宗たちと共に三年前にこの学園に赴任してきた、国語教師。
サッカー部の顧問である幸村は監督という立場ながら、何故か生徒と交ざり一緒にプレーしている。
それの良い影響なのかはわからないが地方予選ベスト4止まりだったサッカー部を三年連続全国の舞台に連れていってるその腕は確かなのだろう。

「兎に角、なんか惹き付けられるんだ、アイツには」
「ふーん。まぁ、あと1ヶ月だよ?」
「…そうだな」

佐助はまたマンガを捲りながら、興味があるのかないのか、煽るような言葉を呟いた。
政宗はそれを聞き流すように、返事をした。






「なんだか浮かれてるね、どいつもこいつも」
「チョコ食いながら言う奴の台詞じゃねえな」
「え?貰ったから食べてるだけじゃん」
「アンタを好きだっていう奴らの目は節穴なんだな、きっと」
「失礼だな。だいたい政宗だってそのチョコ食べるんじゃん」
「俺のは全部義理だ」
「俺だって義理もありますよ?」

バレンタインデーに校内が浮き足だっている中、しれっと佐助が貰ったチョコを食後のデザート代わりにつまんでいる。
政宗は義理だというものだけ貰っているが、その中のほとんどが本命なんだということに当人だけが気付いていないのだ。
佐助はそんな政宗のことを残酷だとも思ったが、あげるほうも貰ってくれるだけでいいというのだから、政宗のその人気は校内だけとはいい、もはや芸能人みたいだなと、チョコで甘ったるくなった口にコーヒーを流し込みながら思う。

「政宗は?あげないの?」
「誰に」
「決まってんじゃん」
「…あげねえだろ」
「へえ、あげればいいのに」

面白いから、とは言わないが佐助は政宗が幸村にチョコをあげるのを想像して笑う。

「真田センセ甘いの大好きじゃん」
「…だから、あげねえよ」

政宗と佐助が不毛な会話を続けていると、校内放送がかかる。

『3-A伊達、至急生徒指導室まで』
「真田センセだね?」
「何でだよ」
「政宗ナニしたの?」
「黙れクソ猿」

面倒くせえと、呟きながら政宗は教室を出ていく。

「とかなんとか言っちゃって。随分素直に行くんだねー」
「…黙れ」

そりゃそうか、と佐助は幸村に呼び出しをくらった政宗を手を振りながらへらへらとした顔で見送った。



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