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□道しるべ
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進むべき道を、呆れながらもいつも照らしてくれる、小さな道しるべ。
道しるべ
なんで、こんなことになったんだろう。
はぁーっと寒空に向かって息を吐くと、白い息が灰色に包まれた空に吸い込まれて、消えた。
黒い水面にうつしだされた街のネオンサインが、やけに眩しい。
手足を乱暴に放り投げ、ごろんと河原に横になった。
ひんやりとしめった、草の匂い。
いつからか、俺は嘘で塗り固めた嘘を吐き続けて、江戸川コナンという存在を演じなければならなくなっていた。
いつからか、俺は大切な幼馴染みを泣かせることしか出来なくなっていた。
アイツの涙なんて、一番見たくないはずなのに。
今の俺には苦しみ悲しんでいるアイツを抱き締めることも、手を差し伸べてやることも、出来ない。
それは、酷く残酷だった。
目の前で、携帯電話を握り締めながら泣いている蘭。
両手を馬鹿みたいにぶら下げて、何も出来ずに突っ立っている、自分。
消えない水たまりがどんどん自分の中に広がっていって、止められなくなって。
気付いたら、飛び出していた。
なんで、こんなことになったんだろう。
今思えば自分は、極めて平凡な高校生だったと思う。
ちょぴり特殊な家に生まれて、ちょぴり特殊な環境で育って、ちょぴり特殊な才能を持っていただけで。
普通の高校生と同じように、友達と馬鹿騒ぎして、幼馴染みと喧嘩して、母さんに怒られて、テスト前だけ徹夜で勉強して――そんな他愛もない日々を送っていた。
いや、今も送っていたはず、だった。
それが、あの日を境に変わってしまった。あの、たった1つのカプセルのせいで、何もかもが。
水面にうつる街の灯りが馬鹿に眩しくて、ぎゅっと瞳を閉ざした。
途端に消える、街の喧騒。そして、広がる黒い、世界。
聞こえてくるのは、まるで自分に襲いかかってくるかのような、ごうごうと流れる川の音。
ぎりっと奥歯を噛み締めると、きんと耳鳴りがした。
いっそのこと川にのまれればいい。そうしたら、止まない水たまりも洗い流せるだろうか。
そんな半ば自暴自棄なことを考えていると、コツンと頭に何かがあたり、がさがさと耳元で草が揺れる音がした。