Special
□夢か現か
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私は走っていた
独りぼっちで走っていた
暗くて黒い大きなものの側を
どこまでも走っていた
どこへ向かうのかも分からないまま…
「…哀ちゃん?」
ハッと気がつくと吉田さんの心配そうな顔が覗き込んでいた。
「どうしたの?何だか凄い怖い顔してたけど」
「え?」
慌てて辺りを見渡せば
見慣れた教室に見慣れた机
見慣れたクラスメ−ト
今のは…夢?
「何か悩んでることがあったら、一人で抱え込まないで私に言ってね?」
暖かい吉田さんの言葉が、少しずつ私を現実の世界に戻して行く
大丈夫。
私はここにいる。
「…ええ。ありがとう」
私はそれだけ言うと、心配そうな顔の彼女を残し、教室から出て行った。
最近、毎日同じ夢を見る。
暗くて黒い大きなものの側を永遠に走り続ける夢
その夢のせいで夜眠るのが怖くなったのは最近のことで
睡眠不足のせいか、最近昼間のふとした瞬間に眠くなることが多くなった
そして今日、とうとう昼間にまで同じ夢を見るようになってしまった
この夢が何を暗示しているのかは、分からなかったけれど
あまり良くない夢だということだけは、分かっていた
「灰原哀」として、平和過ぎる毎日を送っている現実からはかけ離れた夢
その夢が少しずつ、私の平和過ぎる生活を侵食していく
それを止めることは
出来そうになかった。
それでも私は夢と戦った
この生活を失いたくはなかったから
侵食を食い止められないなら、夢の中に出て来る「暗くて黒い大きなもの」の正体を突き止めたいと思った。
正体が分かれば、その夢を対処出来るように思えたから
ちゃちで子供っぽい考えだった。