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□彼の理由と彼女の理由
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「おい宮野!」
俺は博士の家のドアを乱暴に開けると、彼女がいるであろうリビングに直行した。
「工藤君?どうしたの?今日は部活だって言ってなかった?」
彼女は左手におたまを持ちながら、怪訝そうな顔をして振り向いた。
「あ、それは」
「まさか忘れたの?」
「あ…あぁ」
嘘だった。
本当はちゃんと覚えていたけれど
クラスの奴らの話を聴いたら、居ても立っても居られなくて
「そんなことより、お前にちょっと…聞きてーことあんだけど」
「何?」
「いや…その…」
いざ聞くとなると…
どうやって聞けば良いんだ?
「ねぇ何なの?」
火にかけた鍋をチラチラ見ながら不機嫌そうに彼女は言った。
彼女の背後には「早くしてよ」オ−ラが漂っている。
ここは一発、腹を据えて…
「…菊池と……抱き合ってたって本当かよ?」
菊池というのは、女子からの人気が高い文武両道に秀でた生徒会長のことだ。
それに女癖が悪いって評判もあったりする奴で…
「…あぁ。あれね」
それだけ言うと、彼女は興味を失ったような顔をして、俺に背を向けながら火にかけた鍋の様子を見始めた。
…あぁ。あれねって……
おいまさか…
「本当…だったのかよ?」
「えぇ。昼休みにいきなり菊池君に呼び出されて…告白されたのよ。
抱き合ってたって話はおそらく尾ひれが付いた物だと思うけど、その時に勢い余って菊池君が抱きついてきたのよね」
何でコイツはこんなに冷静に、淡々と話してるんだ?
「なぁ…何でそんなに冷静なんだよっ!?」
「何でこれ位のことで慌てなきゃいけないのよ?」
「…普通慌てるだろ!」
「抱きつかれたからって別に減るもんじゃないし。取り立てて騒ぐようなことじゃないわ。
それより気が散るから向こうに行っててくれない?」
あ…あり得ねぇ…
俺は忙しそうに鍋を掻き回す彼女の後ろ姿を、ただただ呆然と見つめていた。