Special

□彼の理由と彼女の理由
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当の本人がこんなに冷静で、これっぽっちも気にしてないっていうのに

何で俺がこんなに動揺してんだよ?


アホらし…




余りにも馬鹿馬鹿しくなって、俺は放り出した鞄の中に入っている推理小説を読み始めた。

容疑者全員にアリバイがある難事件を、かの有名な名探偵ポアロが解決する俺の大好きな推理小説だ。


えーっと確か、容疑者全員の証言を照らし合わせて…



『何でこれ位のことで慌てなきゃいけないのよ?』

『抱きつかれたからって別に減るもんじゃないし。取り立てて騒ぐようなことじゃないわ。』


俺の思考を中断するかのように、宮野の言葉が頭の中で反芻した。



…駄目だ。

大好きな推理小説の筈なのに

字面を追っているだけで

全然集中出来ない。




彼女が夕飯の支度をする音だけが、リビングに響いていた。





ふと顔を上げると、さっきと変わらずに鍋の様子を忙しそうに見る彼女の後ろ姿が見える。


そんな彼女の後ろ姿は

余りにも無防備―








そう思った瞬間、体が無意識のうちに動いていた。









「工藤君?何なの?」

「…」

斜め後ろから彼女の左手を握り締めると、驚いた顔をして彼女は振り向いた。



「くど…」

「…抱き締めて良い?」
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