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□彼の理由と彼女の理由
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「…は?」

間の抜けた返事が聞こえる。

「だから……抱き締めて良いかって聞いてんの!」




「…良い訳ないでしょ?」

彼女はそう言うと、左手を振り払って俺との距離をとった。



「何でだよ」

ズイと彼女の方に詰め寄る。


「何でって…当たり前でしょ!
『抱き締めて良い?』何て聞かれて『良いわ』なんて答える訳ないじゃない!」

「お前さっき『抱きつかれたからって別に減るもんじゃない』って言っただろーが!」

「…それはっ」


彼女の瞳が微かに揺れた。

また一歩、俺から距離を取る彼女


トン、と彼女の背中が壁につく音が聞こえる。


「菊池に抱きつかれても平気なら、俺が抱きついても良いだろ?」

「絶っ対嫌」


何だよそれっ…


彼女の強い拒絶の言葉が無性に腹立たしくて

俺は逃げようとする彼女の左手を掴んで彼女の背後の壁に手をついた。


「何でだよ!」

「…何でもよ」

「理由は?」

「…」


俯いたまま俺の問い掛けに答えようとしない。


「なぁ」













「……工藤君は駄目なの」












「え?」


「だから…工藤君は駄目なのっ」


工藤君は駄目なの…って


「バーロ!俺はその理由を聞いて…」

「今言ったじゃない。…『工藤君は駄目』って」

「は」の部分を少しだけ強調して、彼女は小さくそう呟いた。
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