Special

□彼の理由と彼女の理由
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『工藤君は駄目なの』

俺だと…駄目?



それって…


それって……












…どういう意味なんだ?



目の前には俯いたまま悔しそうに唇を噛んでいる彼女の姿



俺の視線に気付いてチラリと目を上げて―

赤くなりながらますます俯いて―







あーもう…


意味なんてどうでも良い。




左手を強く引いてギュッと抱き寄せた。




カラン…

彼女の右手からおたまが滑り落ちる。






「…人の話聞いてた?」

「聞いてた」

「私駄目だって言ったじゃない!」


俺の腕を振り解こうとする彼女



それでも

益々強く抱き締めると彼女の抵抗はパタリと止んで、代わりにキュッと背中を掴まれた。













「だから駄目だって言ったのよ…」

耳元で囁かれたその声と同じように、彼女の細くて柔らかい体は小刻みに震えていた。







あぁ…そうか。

俺が部活にも行かないで慌てて帰って来た理由は…

彼女の強い拒絶を聞いて無性に腹が立った理由は…


こんなに簡単なことだったのか



スウッと胸のつかえが取れていく









「宮野」

耳元で名前を呼ぶと、一瞬ビクッと反応してすぐに彼女の体は強張った。


そう…まるで俺が次に何を言うかを知っているかのように


彼女の息づかいが途絶えて、全身で俺の言葉を待っている。




震える彼女の体を抱き締めながら

余りにも単純過ぎるその理由を、言葉に変えて吐き出した。









「…好きだぜ」



end

次のペ−ジは後書きです。
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