Special

□雨のち曇り、ときどき晴れ
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「今日はね、歩美のお母さんがクッキー焼いてくれたんだ」

嬉しそうな笑顔と共にバスケットに入った可愛らしいクッキーを、哀に見せる。


「おっ!うまそうだなー」

早くもその匂いを嗅ぎつけたのは、探偵団一の食いしん坊。

バスケットの中からクッキーをつまみ出し、すでに頬張っている。


「あ、元太君は五枚までだからねっ」

「何でだよー」

「そりゃ、元太君ですから」


背中には温かな春の日差し。

目前には微笑ましく続けられている会話。

あぁなんて、なんて私は。




「いつもそんな顔してれば、眉間に寄せたしわも取れんじゃねぇの?」

哀の微かにほころんだ口元を目ざとく見つけて、隣に並んだコナンが眉間を指差しながら指摘する。


「…大きなお世話だっていつも言ってるでしょ?」

「別に俺は何もしてないぜ?ま、アイツらにお前の居場所を教えたぐらいはしたけどな」




この借りは大きいわよ?工藤君?




「私にも一枚くれるかしら?」

「もちろん!」

嬉しそうにクッキーを渡す歩美と、それを小さく微笑みながら受け取る哀の背中。




願わくば、彼女のその表情を変えられるのは、自分でありたいと。

そう願うけれど。

自分にはまだ、その力がないことを知っている。

だからこうやって、小さな友人たちに頼ってしまう自分がいて。

自分がいくら頑張っても、出来ないことをサラリとやってのけてしまうその小さな友人たちには。

きっとまだ、叶わないのだろう。




「コナン君、はやくはやくー」

「おう!」



まだ時々垣間見ることしか出来ないけれど、

この晴れの状態が、もっともっと長く続きますように。



雨から晴れへとその表情を変えた、少女の柔らかい微笑みが少年を迎えた。




end

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