Special
□発令注意報
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「灰原」
哀の背中に響く、声。
いけない、このままでは。
「なぁ」
強く引かれた腕に加わる、その温もりに。涙が出そうになる。
「歩美たちから聞いたぜ?オメーが真っ先に倒れた俺の元に駆け寄って、目にも止まらぬ早さで救急車を呼んだって」
「っそれは…あの薬の副作用を心配したからで、」
哀が呼んだ救急車に運ばれながら、まるで動かない少年の体。
ただの過労ですから心配ないですよと、白髪の医者に優しい笑顔をむけられても。
病院に駆けつけた博士に少し休むように諭されても。
哀は片時も、少年の側を離れようとはしなかった。
「ずっと側にいてくれた」
「え?」
「柔らかくて温かいオメーの手の感触、ちゃんと覚えてるぜ?」
冷たくなった手を何度もさすりながら、ぎゅっと握りしめて。
何度も名前を呼んでくれた。
「灰原」
そのかすれた声で、名前を呼ばれて。
哀はビクンと背をふるわせた。
紅い夕日が病室に、そそがれて。
沈黙が、支配する。
いけない、いけない、いけない。
ここから逃げなくては。
ここにいてはいけないのに。
哀の中の警鐘がどんどん酷く鳴り響いて、それでもその手を振りほどくことは出来なくて。
ゆっくりとその身を振り返らせると、切なげな笑みを浮かべてコナンが呟いた。
「好きだ」
それはきっと、単純過ぎる一言で。
聞いてはならない、たった一つの真実の言葉。
あぁ、分かっていたはずなのに。
けれど、気付いたときには。
もう、手遅れだったの。
end