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□散り華
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どんなに輝き美しく咲き誇る華でも、やがては枯れ、散っていく。
そしてまた、小さな命が芽吹く。
散り華
残暑が厳しい夏の夕暮れ時――突然降りだした夕立ちが止んで雨宿りを余儀なくされていた人々が一斉に帰路に着く、そんな時間。
雨上がりのアスファルとの匂いに、少し前まで大粒の雨を降らしていた黒雲なんかまるで知らないような澄んだ青い青い、空。
湿った空気を切り裂くような真夏の日差しが貫く。
それはバスを待つ長い行列に並んでいる人々にも例外なく、容赦なく降り注いでいて。
その行列の中にいる黒いつばの広い帽子を被った女性は、じんわりと汗ばむ額を水色のハンカチでそっとぬぐっていた。
先ほどの突然の夕立ちでぐっしょりと濡れて体のあちこちに張り付いていた白いブラウスは、すでにカラカラに乾いている。
湿っぽい腕時計を睨みながら、女性は思わず溜め息をもらしていた。
もう、半時間も待ってるのに。
きっと、先ほどの激しい夕立ちでバスが大幅に遅れて、その上夕立ちが止んだ後には今度は乗せるべき乗客が多すぎて益々遅くなったのだろうけれど。
自然現象に腹を立てても、無意味なのだろうけれど。
今日だけは、どうか。
腕時計と格闘しながら知らず知らずのうちに眉根を寄せている自分に気づき、額をそっと撫ぜた。
またしわが増えるからやめた方が良いと口煩く言うであろう、長年飽きるほど共に過ごしてきたその姿を思い浮かべて、思わず微笑を浮かべる。
丁度その時、その女性が腕時計からふっと顔を上げた時、一台の白い車が目に飛び込んだ。
前方に表示された空車の二文字と後部座席に乗客が誰もいないことを瞬時に確認すると、女性はさっと手を上げた。
行列の中ほどに車が滑るように止まると、後部座席に乗り込みながら素早く行き先を告げた。
「米花総合病院までお願いします」
バスを待つ行列から送られる羨望の眼差しには、気付かない振りをして。