あいりん。
□2人の鷹緒
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吉原遊郭・華菊屋 -昼-
いつからだっただろう、オレがここで働くようになったのは・・・
物心ついたときにはもうこの吉原遊郭にいたからもう覚えてないな。
オレには実の両親が付けてくれた“なぎさ”という名前がある。
名前だけで女だと勘違いされることがよくある。それでも実の両親が付けてくれた名前だから、嫌いじゃない。
そんなオレには双子の姉がいて、姉は幼い頃からからなんでもできて
容姿も良く、将来は呼び出し″と呼ばれる最高級の花魁になるだろうと言われてきた。
案の定、姉は17という年齢で日本一であろうと言われる超売れっ妓の呼び出し花魁になったのだ。常に笑顔を絶やさない、その笑顔は見た者の心を癒す。
そして、狙った獲物は逃がさない。そんな彼女の名前は華菊屋の4代目鷹緒(たかお)といった。
姉とは違ってオレは男で、客も取るわけじゃあない、優れた容姿も教養も必要ない。
小さな頃からこの華菊屋の下働きとして大人ばかりの所へ混ざり店の掃除などの雑用をやっていた。
*
今日はよく晴れた日だ、洗濯物がよく乾く
オレは鼻の下まで伸びた前髪を濡れた手でかき上げた。
太陽の光がまぶしい。
オレが少しの間、空を眺めていると後ろからドスッと誰かが抱きついてきた。
「なぎ兄ちゃんっ!」
「なぎ兄さんっ。」
ずいぶん良く整った顔を近づけて、にこにこしているこの二人は
最近オレ達の実の妹だと分かった双子だ。
『なぎ兄ちゃん』と呼ぶのは藍羽(あいは)で、この双子の姉の方だ。
そして『なぎ兄さん』と呼ぶのは鈴野(りんの)姉よりやや大人しめな性格をしている。
この双子は最近この吉原で美人双子として有名になりつつある。
藍羽と鈴野であいりん双子″とも呼ばれる。
オレの姉、鷹緒付きの振袖新造だ。
『*
振袖新造(ふりそでしんぞう)とは、花魁の見習いで花魁の身の回りの世話をしながら
いろいろな事を学んでいきます。格の高い花魁になる将来が約束されています。』
「なんだよ・・・オレは仕事中だぞ?」
二人の妹を背中から剥がして、洗濯物を物干し竿へかけながら言った
すると、藍羽は頬を膨らませて言った
「鷹緒花魁が、なぎ兄ちゃんにコレを渡しなさいって」
そう言うと、藍羽がオレに『手を出して』と言って手のひらに何かを置いた。
それは、いろいろな色の綺麗な飴玉だった。
オレの手のひらには五つほどの飴玉が乗せられたのだが、一つは鈴野が食べてしまって4つになってしまった・・・・
まぁ、いい。
「ところでなんで鷹緒姉さんはオレに飴玉をくれたんだ・・・?」
「なぎ兄ちゃん仕事ばっかりで食べ物もまともに食べてないだろうからって」
「・・・・そっか」
鷹緒姉さんは自分だって忙しいはずなのに、弟のオレの事をしっかり見ていてくれる。
優しい人だ。
昔からオレの事を守ってくれて気を使ってくれて大切にしてくれた。
だからオレも姉さんの為ならなんだって協力するし、どんな事だってやる。
オレはそう誓ったから。
「姉さんに、ありがとうって伝えといてくれ」
オレはそう言って、二人の頭を軽く撫でた。
二人は「うん!」と頷いて店の中へ入って行った。
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