あいりん。

□2人の鷹緒
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華菊屋 -夜-


この吉原一番の時間がやってきた。
美しく着飾った女たちは、籠のような所で男に買われるのを待っている。
オレはこの時間が一番嫌いだ。特に嫌いな理由があるわけではないが、なにか見ているとイライラしてくる。
店に来る客共を遠くから睨みつけていると誰かに頭をペシンと叩かれた。

「痛っ・・!」


オレは叩かれた所を手で抑えつけながら後ろを振り向くと、見なれた男が立っていた。


「なぎさ・・お前そんな目で睨みつけてると客が来なくなるからやめろ・・・。」
「・・・・亮汰・・」

この亮汰(りょうた)という男は、オレと同い年で親友だ。
とても体が大きく、身長の低いオレができない事をなんでもこなす。店の下働きには持って来いなヤツだ。

「お前ただでさえ仏頂面で笑わねぇのに・・睨むなよ」
「・・別にいいだろ、ムカつくんだから」
「なにがそんなに気に食わねぇんだよ」
「・・気に食わないんじゃなくて、ただなんとなくムカつくだけだ・・!」

「・・はぁ。」


亮汰は、ため息をつくとオレの頭に手をポンと置いて言った。


「少しでも笑えば可愛いのにな。」
「・・・なんだよ気持ち悪ぃ。可愛いとか・・オレ男だぞ。」


嫌そうにオレはそう言うと、亮汰はオレの前髪を上げて少し面白そうに言った。

「でも鷹緒の姉貴と瓜二つじゃねえか。お前女顔なんだよ」


女顔。…オレが一番気にしている事なのだ。

普段は長い前髪で顔が少し隠れているせいもあって誰も姉と似ているとは言わない。言わないどころか
暗い奴で、下働きの中で一番華のない容姿をしているとまで言われた事がる。

それはそれでいい。姉と同じ顔の自分のせいで鷹緒花魁としての姉の地位に影響がでる心配もなくなる
姉は花魁になってから、そんなに日が経っていない。
花魁として安定するまで、下手なことはできない。



女顔、・・・。

そういえば12歳の頃に、この顔のせいで芳町(よしちょう)に売られかけたことがあった。


芳町といえば、陰間茶屋(かげまちゃや)が多く並ぶ所だ。

陰間茶屋というのは陰間という男娼たちがいるところで簡単に言うと、遊女屋の遊女が男になったというだけだ。
と、言っても。陰間達が取る客は大抵が男なのだ。

その時は、姉が必死に大人たちを止めてくれたのだが
後で下働き仲間の大人達にその芳町の事を聞いたのだが、その後、オレは一生をかけてでも姉に感謝せねばと思った。


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