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□君に歓びの朝
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薄手のカーテンから透けるぼんやりとした明るさに、重い目蓋を持ち上げた一護がうっそりと頭を巡らせて枕元の時計を確かめると、針は午前7時を少し回った頃を指していた。
今年はこの時期にしては温かい日が続いていて、今朝も気温はおそらく高めだ。室内の空気に寒さは感じなかったが、身じろいだ肌に触れるシーツが少しばかり冷たい。汗に濡れたのをそのままに寝入ってしまったから冷えたんだなと思い至って、一護は傍らで自分に背を向けて眠る相手の剥き出しの肩にそっと手を触れてみた。――大丈夫、身体は冷えてない。
この程度で風邪を患うほどやわな奴だとは思っていないが、万が一にも体調を崩してもらうわけにはいかない。いつでもそうだが、今日は特に。

(だって今日は、お前の)

石田雨竜の、誕生日だ。





君に歓びの朝







正直昨晩は失敗した。
日付が変わった直後におめでとうを言いたくて、今日が休日なのを良いことに前日から泊まらせてもらったまでは良かった。
けれど深夜零時を迎える前についうっかりと盛り上がり、なし崩しでベッドへ倒れ込み、気が付いた時には日付が変わってから2時間近くが過ぎていて。
少々久し振りだった事もあっていつになく密な行為を幾度もこなし終えた時には二人して疲労困憊していて、お互い今にも眠りに落ちそうな状態で言うべき台詞を思い出した一護の「誕生日おめでとうな」という祝辞は、枕に突っ伏してすでに半分以上寝かかっていた雨竜のいかにも眠そうな「はあ、どうも‥‥」との生返事で、あっさりと流された。十中八九伝わっていない。まあ一護自身もすぐさま寝入ってしまったので、お互い様ではあるのだが。

にしたってアレはねーよな何やってんだ俺、と自らの失態に寝癖のついた頭を掻いて溜息をつくも、まあいいかと気を取り直す。
なにしろ今日は休日で、これから丸一日を二人で過ごせるのだから。挽回はいくらでもできる。

未だ夢の中にいる雨竜を起こさないように、一護はそっとベッドから降りた。
床に散乱したままの衣服を拾い上げつつ眠る雨竜の顔を見やり、疲労の色を残しながらも穏やかな寝息を立てる彼を認めて、知らず口元が緩む。緩んだままついジッとその寝顔を眺めているうち、ああクソやっぱ好きだなこいつ、とか、いつもこんな顔してりゃ可愛いのに、ってダメだろ心臓保たねぇだろ俺、とか、つーか減らず口叩くこいつも好きだしな、とか、とか、とか。
普段は照れて思う事もままならないことをぼんやり胸中で呟き続け、うっかり甘ったるい気分に浸りきっていた自分にハッと気が付いた一護は、一気に耳までを赤く染めて込み上げる気恥ずかさに頭を抱え身悶えた。

(寝顔眺めて好きだの何だのって、なんつー恥ずかしい真似してんだ俺は‥‥!!)

いっそ壁にでも頭打ちつけてぇ、と思うも眠る雨竜を起こす騒音を立てるわけにもいかず、ベッドサイドで一人静かに羞恥をやり過ごしてから何とか立ち上がる。とりあえずシャワーだ。頭冷やそう、そうしよう。


 
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