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真夏の太陽がキツい日差しを地面へと降り注ぎ、容赦なく気温を上昇させる午後。
往診を終え診療所へと自転車を走らせていた一護は、立ち上ぼる陽炎の中一人歩く後ろ姿を行く手に見つけてペダルを漕ぐ足を急がせた。
背筋の伸びた華奢な肢体と、半袖から覗く色白な細い腕。この南国の島に不似合いな肌色と体付きの男を、一護は一人しか知らない。
「おーい石田ぁー」
追い付いた背中に呼び掛けると、ゆっくり振り返った彼は案の定不機嫌そうに眉を寄せた顔で一護を見た。
「やあ。今日和、黒崎先生」
「‥‥ンな露骨に嫌そうな顔で取ってつけたみてぇな挨拶すんな」
棒読みの返事に仏頂面で返しながらも、一護は自転車を降りてその隣りへ並ぶ。
「悪かったね、僕は元々こんな顔だよ」
「いや今あからさまに俺見てヤな顔したろ」
「自意識過剰なんじゃないか?」
一護がこの離島へとやってきて、一ヶ月。
愛想の悪い派手な髪色の若い医師を初めこそ胡乱に見ていた島民達も、今は概ね好意的に一護を受け入れてくれるようになっていた。
――けれど、この相手だけは勝手が違う。
「大体何でわざわざ自転車降りて歩いてるんだ。さっさと通り過ぎれば僕なんかの顔見ずに済んだだろ」
勘に触る口調に険のある態度。
初対面の折に見せた露骨な敵意こそ無くなったものの、雨竜の医者嫌いからくる一護への反感は頑なで、顔を合わせれば憎まれ口ばかりを叩く。キレーな顔して可愛くねぇな、と苦々しく思うばかりだ。
‥‥ただ、彼の素顔がそんな面だけではない事を、一護は知っている。
「恋次の具合どうだ?」
不機嫌な表情の雨竜を無視して問い掛けた。
先週本土の病院を退院して戻ってきた、この島で一護が診た最初の患者。 雨竜と彼との親密さは一護も目の当たりにしている。
「予後診るっつったのに全然来ねぇし、あいつ」
「‥‥回復が早かったのは執刀医の腕のおかげだって言われたよ」
思いがけず静かな口調で返されて、一護はぼやきを飲み込み隣へと瞠った目を向けた。
「恋次の事については、感謝してる。診療所にも行くように伝えるよ」
そう告げる声の儚さと横顔に浮かぶ頼りなげな表情は何だろう。
そして、それにこうも胸を突かれ、揺さぶられる自分は何なのか――。

あの日から続く戸惑いを再び感じながら、そうさせる彼の横顔を、一護はただ見つめていた。



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